第3話 サンタクロースへ贈るプレゼント
―――結果から言ってしまえば、プレゼント配達はしっかりとこなすことができた。
「……どうしてなの……」
まあ、プレゼント配達はだが。
「イヴちゃんの綺麗な白髪が、黒染めしたみたいになっちゃった……!」
「地毛だから校則違反じゃないのに!」
イヴが『サンタクロースといえば煙突よね!』なんて言いながら意気揚々と煙突に飛び込んだところ、(案の定)激突。
火は付いていなかったから良かったが……髪にべったりとすすが付いてしまった。
プレゼントを届けられたのも、正直、全部ノエルの手柄だ。
イヴはずっと横ですすと格闘していた。
「……これだから、クリスマスは嫌いなのよ。ろくなことがないわ」
側から見れば情けない事件だが、それでも、イヴの『トラウマ』を刺激するには十分だった。
いや、そんな大層なものじゃない。
―――イヴの両親は、どちらもサンタクロースであった。
周りの人たちに幸せを届ける仕事に就いている両親を誇らしくも思っていたが……両親が帰ってこないクリスマスの夜は、イヴに寂しい思い出ばかりを覚えさせた。
「……って、変な話しちゃったわね。ごめんなさい。今のは忘れて―――」
イヴはいつのまにか口から漏れていた言葉に気づき、恥ずかしそうに顔を赤らめた。
「―――イヴちゃん!」
「は、はいっ⁉︎」
対するノエルは何かを決意したような表情でイヴの名前を呼ぶ。
そのあまりの気圧に、イヴは思わず背筋を伸ばした。
いつも人懐っこい笑みを浮かべている彼女だが、今はなぜか顔に影を落としている。
「……さっき。『欲しいものは恋人』だって、言ったよね?」
理解できない様子で首を傾げる。
「ああ、うん。それがなに?」
「欲しい? すっごく、欲しい?」
「え? まあそれはもちろん……」
「―――なら、あげるよ。」
イヴが間の抜けた声を上げたのが先か、それとも口を塞がれたのが先か。
そんなことはイヴにとって、もはやどうでも良いことだった。
「……へっ。な、なん……?」
ノエルはそのままイヴを抱きしめ、雪の毛布に押し倒すような形で、一緒に崩れ落ちた。
「あたしが恋人じゃ、嫌だ?
絶対に寂しい思いはさせないし、クリスマスだって、一緒に過ごしたげるよ」
「い、嫌って……」
前にも言った通り、彼女は成績優秀の上に、見た目も性格も最高に良いのだ。
そんな美少女に想いを寄せられているだなんて、ラブコメみたいな展開がすぎる。
「……嫌なんかじゃないけど、分からないわ。なんで優等生のあなたが、劣等生のわたしを?」
「うっ! そ、それは……」
ノエルは過去最高に頬を赤く染めてから、恥ずかしそうに身をよじらせる。
「だめだめなイヴちゃんを見ていると、なんだかお世話したくなってくるっていうか……その、あたしが守るよ、みたいな?」
それはいわゆるヒモに引っ掛かる女性の心理なのでは?
そう思わずイヴはツッコミたくなってしまったが、まあ良い。
①劣等生であるイヴに構ってくる理由。
②『イヴと一緒になら』とプレゼント配達を受け入れた理由。
これですべてが繋がった。
「ねぇ、お願い。あたしと付き合って! あたしの欲しいものはイヴちゃんだけなの!」
ノエルはイヴの胸に顔を寄せ、必死におねだりするように言葉を紡ぐ。
ミニスカワンピから、冷たい足の感触がする。
……これって。
……こういうのって、なんか。
ああ、もう。
(クリスマス、最っ高〜〜〜‼︎‼︎♡♡♡)
王国立サンタクロース学園 葦葉つみれ @asb-
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