第2話 ノエルとプレゼント配達

「イ〜ヴちゃんっ、そっちじゃないよ〜」


「わ、分かっているわ! こっちでしょ?」

「うーん。その反対!」

「ぐぬぬ……」


 手元の地図をギュッと握りしめる。


 白髪の少女・イヴと、二つ結びの少女・ノエルは、『プレゼント配達の実習』のため、冬の夜空の下を歩いていたのだった。


 ご丁寧にミニスカサンタまで用意されている。

 まあ、イヴは下にジャージを履いたが。


(本当なら今頃は、こたつでぬくぬくしているはずだったのに……)


 イヴは心の中で、そう悪態をついた。


 それもそのはず。

 【王国立サンタクロース学園】には、『プレゼント配達の実習』なんてもの、元々は、存在していなかったのだ。


 めちゃくちゃ駄々をこねて先生から入手した情報では、昨年の配達で腰をやり現役引退してしまったエリートサンタクロース爺の穴を埋めるため、優等生であるノエルに声が掛かったが……

 なぜかノエルは「イヴと一緒になら良い」と謎の案を出したんだとか。


 そのせいでわたしは楽しみにしていたドラマを見逃した。許せない。


 十中八九『無理な条件を出して遠巻きに断ろう』作戦を試して失敗したのだと思う。


(今すぐにでも懲らしめてやりたいけど、先生から他言無用だとめちゃくちゃに念を押されたしなあ……)


「――どうかしたの、イヴちゃん?」


 急に立ち止まったイヴを心配してか、張り切って先を歩いていたノエルが振り返り、そう問いかけてくる。


 ……ここで先生の言いつけを破っては、退学になりかねない。


「……いや、なーんでもないわ。」

「? なら良いけど」


 イヴはひとまずそう誤魔化すことにして、また一歩ずつ、歩みを再開した。

 幸い、ノエルは違和感を感じてはいなさそうだ。


 冷たい風が頬を突き刺す。



「ねぇ、良い子たちのお家に着くまで、何か雑談でもしようよ!」


 ノエルは背中に背負った白い袋を背負い直して、いつもの笑みを浮かべた。

 ……そのミニスカ(我々の正装・サンタ服であるが)寒くないのかな……なんて思うのは、一人の女学生としては間違っているだろうか。


「良いけど……雑談って?」


 ノエルは少し考えこんでから、少し赤らんだ頬――冬の冷たさのせいだろうか――で口を開く。


「い、『今一番』とか?」


「……サンタクロースなのに?」

「別に良いでしょうよ、サンタクロースだって夢見て!」


 欲しいもの。そんなものは決まっている。


「『クリスマスを一緒に過ごせる』。」


「……サンタクロースなのに!」

「別に良いじゃない、サンタクロースだって夢見て!」


 くそ、似たような会話を繰り返しちゃったよ。


「そういうノエルはどうなのよ? 欲しいもの!」

「えっ、えぇ? あたしは良いよ……!」

「自分だけ言わないだなんてずるいじゃない。……まあ、いいわ」


 そうこうしている間に、二人は目的の一軒家に辿り着いたみたいだ。

 イヴは深呼吸を一つする。


「さあ。早く済ませましょう、ノエル!」


「……そうだね、イヴちゃん」


 恋人ができないなら、せめてこたつinドラマの至福の時くらい守られるべきなのだ!

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