第4話

「彼女に、なってくれた。」


「そっか。」




思い切って、月子に顔を向ける。淡々とした軽い声とは裏腹に、その横顔は泣きそうに歪んでいた。


唇を、強く強く噛み締める。





「月子、だからもう……」


「いやだよ?」




弱々しく、情けないくらいに小さくなる自分の声。それを掻き消すように、月子がはっきりと言い切った。


それでも、その声は、震えていた。

そんなの、すぐに、分かってしまった。





「今さら、そんなのってないよ」


「月子、」


「……ひとりに、するの?」




ぽつり、呟いた月子のそれに拳を握る。

震えるくらいに、力が入った。





5年前、中学2年に上がる直前の春。月子の両親と兄は、事故で亡くなった。


身寄りもなく血縁者もなく、莫大な遺産と大きな家だけが、残された。


月子は、学校に行くことをやめて高校受験も放棄して、あの家で暮らしている。


ひとり、取り残されたように、住んでいる。




そんな幼馴染を、孤独にしたくない。

それだけで、毎日のように月子の家に寄っていた。


ひとりだと、ろくに食べてくれない食べられないご飯を一緒に食べた。

他愛のない話を繰り返した。


眠れなくなった月子に寄り添うように、ただ、側に居続けた。





けれど。

高校生になって、来未と出会って、初めての感情を持った。


好きになった。


今日、付き合った。







来未を不安にさせないために。


ただそれだけの身勝手な理由で、月子を突き放そうとしている。





そんな俺に、月子は気付いていたんだろう。


簡単に、分かっていたんだろう。

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