2話 キャラクターメイキング

 地に足が着いた感覚を得て、ゆっくりと瞼を開けると、目の前にテキストが書かれていた。


 『スキル・メイク・オンラインへようこそ』


 パソコンの画面をそのまま空中に浮遊させたように映し出されるそれを確認し、ゲームが正しく起動したことに安堵する。

 あたりを見渡すと、無数の画面が壁中に敷き詰められた空間だった。

 続きを促すために目の前の画面にタッチすると、


 『キャラクターメイキングに入ります』

 とテキストが移り 変わった。


 (キャラクターメイキング といっても特に 変えるつもりは無いしなあ)

 182cmの身長、切れ長の二重の目、少しパーマの掛かった黒髪は、前髪が目に掛からない程度の長さで2ブロックになっている。


 すらっと長い足に引き締まった身体。

 自身の身体を思い出しながら、きちんと再現されているのか確認する。


 目の前の画面に映し出されたのは、まぎれもなく自分自身だった。


 (流石にこのままじゃ個人情報的に不味いか?)


 少し悩んだ末に瞳の色を暗い青にする。

 たいして変わってない気もするがいいだろうと、勝手に納得して決定を押した。


 『初期装備を選んでください』


 テキストと共に武器が映し出された。

剣をタッチするといきなり目の前にロングソードが現れる。


 少々驚きながら柄を持ち、剣を構える。実際に手に持って試せるということなのだろう。

 少し振って感覚を確かめる。


 現実世界よりも自身のスペックが落ちているのか、身体が頭についてこない。

 全員同じスペックだとするならそれも納得できる。


 この世界の方が身体のスペックが高い人は喜ぶだろうし、低い人は顔をしかめるだろう。

 今の自分のように。


 とりあえず感覚を修正するため に剣を振るう。

 ある程度修正 できたところで他の武器も見てみた。


 剣も槍も種類は一種類のみ。その名の通り初期装備として公平にしているのであろう。

 槍や弓を手に取り、剣と同じように感覚を修正する。


 ゲームが始まるのは明日からなのだ。

 そのためゆっくりと一通り練習 することができた。


 そして初期装備は剣を選択する。


 (他の武器も使うことになるだろうが、まずは剣だな)


 手に持った剣を眺めながら確認していると、次のテキストが流れた。


 『下着を選択してください』


 驚いて目を見開く。


 (そこまで細部に拘るのか……)


 今履いている黒のボクサーパンツで構わないと思い決定ボタンを押そうとするが、


 (デザインを自分で作れるのか……)


 デザイン変更のボタンを見て呆れてしまう。

 ここまで作りこまれているのは、流石としか言えないだろう。

 そのまま面倒だったため 服もカッターシャツに黒のズボンという、まるでスーツの上着を脱いだような格好にしてしまった。


 『最後に名前を決めてください』


 「名前は零だ」


 そのまま『零』と打ち込み決定ボタンを押した。


 『以上でキャラクターメイキングは終了しました。ゲーム開始時刻は7月30日午前7時です。 それまでお待ちください』


 その文字を読んで電源を落とした。


◆◇◆◇


 スマートフォンに設定されたアラームの音で目を覚ます。

 アラームを止めてベッドから起き上がった零は、いつもの日課のために顔を洗いに寝室から外に出た。


 時刻は午前5:00。


 ゲーム開始まで時間はある。

 顔を洗い歯を磨くと、そのまま外に出て準備体操。

 そして走り始めた。


 いつもの日課。

 身体を鈍らせないために走る。

 いつものコースには早朝からジョギングをしている人も見受けられるが、如何せん自身のスピードが速いので、景色の一つとかしている。


 家に戻ると刀を手に持ち素振りをする。

 そのまま仮想の敵とのイメージトレーニングに入り戦い終えると、シャワーを浴びて朝食を食べる。


 いつもの日常。

 しかし今日は少し違った。


 それはもうすぐゲームが始まること。

 バーチャル・リアリティ空間で行われるオンラインゲーム。

 スキル・メイク・オンラインが始まるということだ。


 ゲームを始めるためにカプセルの中に寝転がる。

 午前7:00分。


 「ゲームスタート」


 短く、しかし高揚した口調でつぶやき、電源を入れた。

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