第2話甘く塩辛い

 今日はみっちゃんとテーマパークに来た。

 テーマパークに行くのも嬉しかったけど、みっちゃんから誘ってくれたことがとても嬉しかった。

 今日のことが楽しみで、実は昨日はあまり眠れていない。朝エナドリを飲んだからきっと大丈夫。

 私は学校を卒業したら地元を離れることになる。みっちゃんとの思い出もこれで最後だ。絶対楽しい思い出にしよう。


 みっちゃんと初めて会った時のことを思い出す。みっちゃんの下の名前は未来みらいで、みっくんでもみっちゃんでも好きな方で呼んでいいよと言ってくれたので、私はみっちゃんと呼ぶことにした。

 仲の良いグループの中でもみっちゃんとはあまり話したりはしない——私もみっちゃんもあまり話す方ではない——のだけれど、よく笑うタイミングが一緒だと思っていた。

 本当はもっと話せたら良かったと今更になって思う。


 テーマパークでの時間はあっという間だった。

 どのアトラクションも楽しかった。何よりあのいつも冷静なみっちゃんがホラーハウスで少し怖がっていた姿が印象的だった。

「ねえ、次はあれに乗ろうよ!」

「待って、そろそろパレードの時間だよ。見るって言ってたじゃん」

「あ、そうだった」

 楽しくて一番楽しみにしていたパレードを忘れてしまいそうになった。へへ、と誤魔化す。


 パレードはキラキラしていて、楽しくて、現実感がなくなったみたいだった。

 パレードに見惚れていると、ふと視線を感じた。視線を感じた先にはみっちゃんがいて、でもみっちゃんはパレードに夢中になっているみたいで、どうやら気のせいだったようだ。

 そういえばアトラクションもパレードもほとんど私が行きたい所にみっちゃんが付いて来てくれてたけれど、みっちゃんは楽しかっただろうか。

 終始楽しそうに微笑んでいたみっちゃんを思い出して、きっとみっちゃんも楽しんでくれてただろうと考え直した。今だって楽しそうにパレードを見ている。


 最後にお土産を買った。思ったよりたくさん買った気がする。

 私はみっちゃんとお揃いのキーホルダーを買ってとても満足している。そのキーホルダーは綺麗なガラス玉が付いていて、色違いになっている。みっちゃんのは青色で、私のはオレンジ色だ。

 みっちゃんとのお揃いが嬉しくて、つい、にやけてしまう。


 *


「楽しかったね」

 帰りの新幹線で、みっちゃんに声を掛けた。何だかみっちゃんと居れる時間がなくなっていくことが勿体無くて、少しでもみっちゃんと楽しい時間を過ごしたかった。

「……うん」

 みっちゃんはゆっくり頷いた。もしかして疲れているのかもしれない。

「もしかして、眠い?」

「……うん、少し」

 みっちゃんはそう言って目を閉じた。

 みっちゃんと話したかったけれど、休ませてあげよう。私も少しだけ眠ろう——


 起きて、と肩を揺らされる。ぼうっとした頭で降りる駅まで着いてしまったことに気付く。

 慌てて荷物を持ってホームへ降りた。改札口を出るとテーマパークにいた時とは打って変わって辺りは静まり返っていた。

 私は父が駅まで迎えに来てくれる予定になっている。みっちゃんの家は駅から近いらしい。ここでみっちゃんとはお別れだ。

「あの、さ」

 みっちゃんが声を掛けてきて、私はみっちゃんの方を向く。

「?うん」

「その……。今日、楽しかった」

「そうだねえ」

 今日の出来事を思い出すと心が温かくなる。

「それで、言いたいことがあって」

「うん」

 ——言いたいこと?一体なんだろう?

「……好き、なんだ。ずっと前から」

 みっちゃんはそう言った後、俯いた。

 ——え?好き?私のことを?みっちゃんが?

 言葉は理解しても頭が全く追いつかなくて、

「え……と」

 声が上手く出てこなかった。

 顔を上げたみっちゃんと目が合う。私は今どんな顔をしているだろうか?

 何かを言おうと、声が出た。

「……あの」

「急にごめん。言いたかっただけなんだ。忘れて」

 私が返事をする前にみっちゃんは早口で言った。

 私は考えが追いつかなくて、しばらく無言でいた。みっちゃんが私に何かを頼んだ気がしたけれど、頭が真っ白で、よく分からずに頷いた。

 それからみっちゃんは足早に駅を出て行った。


 しばらくして、やっと状況が飲み込めた。

 ——みっちゃんを追いかけなきゃ。

 何故かそう思った。まだみっちゃんは近くにいるだろうか。

『みっちゃんまって』

『いまいくから』

 スマホでそう素早く打って、みっちゃんが去って行った方へ走り出した。

 みっちゃんになんて言うつもりなのだろうと心の中で問いかける。

 ——分からない。でも。

 みっちゃんはいつも冷静でみんなのことをよく見ててくれて。私にとってはそんなみっちゃんが憧れだった。好きと言う気持ちは分からない。けれどみっちゃんは私にとって——

 路地に見知った人影を見つけた。

「みっちゃん」

 もう夜だから声を抑えてみっちゃんに呼びかける。

 みっちゃんは開いていたスマホを閉じて私を見た。

 ——言わなきゃ。

 息を整え、あのね、と口に出す。

「私、みっちゃんのこと好きだよ。……友達として。大事だよ」

 みっちゃんはこくりと頷いた。よく見たらみっちゃんの目が赤くなっていた。

「……ごめんね。みっちゃんは大事な友達だけど、気持ちには応えられない。本当にごめんなさい」

 言いながら、私の目に涙が溜まっているのに気付いた。泣いちゃ駄目、と思っても、もう遅かった。涙が溢れて止まらなかった。

「ごめん」

 みっちゃんに謝らせてしまった。謝るのはこっちなのに。

「みっちゃん。これからも友達でいたいよ。駄目かなあ?」

「……いいの?」

「友達でいいのなら。今は誰かを好きになる気持ちが分からないから」

「もしかして可能性、少しあると思っていい?」

「どうだろう」

 二人で少しだけ笑った。


 塩キャラメルを頬張りながら、荷物の確認をする。

 地元を離れてから半年。明日、私は地元に帰る。みっちゃんにも会えるだろうか。

 カバンにつけているキーホルダーがキラリと光を反射した。

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恋の味——それぞれの視点—— 月見つむぎ @tsukimi_tsumugi

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