12月19日(水)

 黒川が出勤すると事件の書類が積み上げられていた。上着を脱ぎ、コーヒーを一口含んでから昨日の進捗を確認する。


 昨日新たに出た情報、それは現場付近での佐伯恒一と思われる人物の目撃情報だった。


「現場のマンション近くのコンビニで佐伯と思われる人物が買い物をしていた。事件の日の午前中に、背の高い人物が酒やつまみを買っている様子が監視カメラに記録されていた。買い物の後に被害者の家を訪ねていてもおかしくない」


「なるほど。それは怪しいですね」


 薫も眉をしかめる。


「だが問題は佐伯のアリバイだ。ショッピングモールにいたという証言は確認できたんだよな?」


「はい。店員の目撃証言と監視カメラの映像から、午後いっぱいショッピングモールにいたという発言は本当のことだと思われます。」


「そうなると、佐伯は午前中に現場付近のコンビニを訪れ、午後には離れたショッピングモールにいた。一方で、隣人の証言では被害者は夕方まで生きていたと思われる。そういうことになるな」


 それが問題だった。コンビニで買い物をした後の佐伯が被害者の部屋を訪れてトラブルになっていたとすると、夕方に物音を耳にした隣人の証言と食い違うのだ。


「しかし、現場近くのコンビニで買い物をしていたのが本当に佐伯だとすると、そのことを証言していないのはあまりに怪しい。他に怪しい人物やトラブルが見当たらない以上、彼の犯行の可能性を十分に疑う必要があるな」


 **********


「16日の午前中にシフトに入られていたのはあなたですか?」


「そうです」


 頷いたのは佐伯と思われる人物が監視カメラに映っていたコンビニの店員、遠藤亮介だ。


「申し訳ないですが、お客さんのことはそれほど記憶にはないですよ。最近はセルフレジを使う方が多いですし、インフルエンザの影響でマスクをつけている方が多いですから」


「なるほど。ではこちらの男性にも見覚えはないですか?」


 遠藤に佐伯の写真を見せる。


「ああ、このお客さんならわかりますよ。時々この店に来て、お酒とおつまみを買って行かれる方です。日曜日にも来ていたと思います。顔をしっかり見たわけではありませんが、背が高い方ですよね。なんとなく覚えています」


 佐伯はクロだ、黒川の直感が告げる。


「そうですか。何かおかしな様子や気になったところはありませんでしたか?」


「いえ、特に印象に残っていることはないです。この方何かしたんですか?もしかしてあのマンションの事件とか」


「すみません、何も話せないものですから。ご協力ありがとうございました」


 黒川は薫を伴ってコンビニを後にした。


「やはり佐伯が怪しいな」


「私もそう思います。ただ現状だと逮捕状は取れないんじゃないですか?」


 薫の指摘はもっともだ。黒川も過去に直感に引きずられすぎて失敗した苦い経験がある。


「だろうな。現場近くに来たことを隠していたから、逃亡の可能性ありとして逮捕の必要性は認定されるとしても、現状だと証拠が不十分で理由が足りないな」


「午前中に現場を訪れたと見て、もう一度目撃情報や監視カメラの映像を確認しましょう」


「よし、方向性は固まった。佐伯逮捕に向けて動くぞ」

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