バターを塗って、その上からジャムもかけて
ヨモギ メイジ
バターを塗って、その上からジャムもかけて
06:24
オーブンの中のトーストをチラチラと覗き、焼き加減を確かめる。同時にお湯を沸かして、ココアを淹れる準備もする。チン、と言う音とともにトーストが焼き上がる。
「あれ〜?」
しっかり見張っていたはずのトーストが焦げてしまってる。
「こうなったら…」
焼けたトーストの上にバター、いちごジャム、シナモンパウダーをかける。ココアをカップに注ぎ、ベットベトのトーストと共にテーブルへ運ぶ。
06:30
「え?あぁ、だいじょぶだって。何度も言ってるじゃん。ちゃんと単位取れてるし、留年とかしないって〜」
心配性な母親の電話に出ながら、トーストをココアで流し込む。
「うん、それじゃ。はい、はーい。またね。」
電話が切れたのを確認し、ふぅーと大きなため息をつく。大学進学のために一人暮らしを始めた娘が心配なのはわかるが、もう入学から半年も経っている。もう少し自分の娘を信用してくれてもいいのに。
08:10
電車に揺られながら、今日の講義のプレゼンテーションの台本を確認する。高校生の時には人前に出て話す機会なんかなかったし、そもそも人と話すのもあまり得意ではないので緊張してしまう。
(今から緊張してたら世話ないよね。)
だからしっかり準備して失敗しないよう気をつける。入念に、何度もなんども。
10:24
いよいよ次の講義で発表だ。発表資料と台本をもう一度確認する。大丈夫、問題ないはず。
10:47
「私は。ぇえと、近代文学がもたらしたぁ…じゃなくて、えー、明治の人々の生活様式がもたらした………」
11:12
発表が終わったと言うのに、みんなが私のことをまだ見ている気がする。あぁ、あんなに準備したのに。なんで私は…肝心な時にいつもこうだなぁ。はぁ、私はずっとこうなんだ。大事な時に失敗して、何をやってもきっとダメなんだ。ずっとずっとずっとずっとこうなんだ…
12:12
学食に行くのは嫌だ。きっとみんなは私を見て笑うから。1人でもそもそとカロリーメイトを貪る。
「はぁ〜」
うん、今日のことは忘れよう。発表なんかなかった。そうだ、帰ったら思いっきしゲームして、アニメ観て、寝よう。ああ、そうだ。好きなようにしよう。思えばなんであんな張り切って発表の準備なんかしてたんだ。どうせ大して評価に関わってもこない。いや、関わってても別に関係ない。みんなきっとそうだ。適当に手を抜いて、そうやって上手くやってるに違いない。私もそうすればいいんだ。
15:34
3限目も終わって、ノート、ペンをカバンにしまう。
(帰ろ…)
そうしてカバンを背負って講義室から出ようとした時、
「あのさ、ちょっといい?」
「え。あ、はい、なんです、なんでしょうか。」
話しかけてきたのは、今まで一度も話したことのない背の高い茶髪の男だった。とってる講義は大体一緒だから存在は知ってたけど…
「あの、君さ、明日香ちゃんでしょ、今日発表してた。」
体温がギュンと上がる。なんだろう。今日の発表。失敗した、私の今日の発表。え、今から何を言われるの?まさか馬鹿にされる、なんてことは流石に。いやでも、だとしたら、なんだ?
「ぁ、はいそうです。」
「ああ、やっぱり!俺さ〜今日の発表聞いててさ、すっごい…」
キュッと目を瞑って、構える。
「感動してさ〜!!」
「……え?」
「いや、俺も文学とか興味あって、この学部入ったんだけど、あんな感じで深く考えたことなくて、もー俺感激、って言うか感動って感じ!」
17:21
失敗した、私の発表。けど、私の心は不思議と充足感に包まれている。頑張ったって、全部が報われるわけじゃない。
(けど…)
全部が無駄になるわけじゃない。
06:25
チン、と言う音と共にトーストが焼き上がる。表面が少し焦げてしまっているが、気にせず齧り付く。
「ぅ、やっぱりマズ。」
けど、バターやジャムで無理やり誤魔化すほどではない。シナモンパウダーくらいでちょうどいい。そう思いながら、私はココアで口の中のものを流し込んだ。
バターを塗って、その上からジャムもかけて ヨモギ メイジ @Opstitan
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