第12話 ダブルデート

 カップの底が見え始めた頃、玲奈がストローをくるりと回しながら、ふと思い出したように顔を上げた。


「ねえ、二人ってこのあと時間ある?」


 軽い調子で投げられた問いに、レンが一瞬だけ俺を見る。確認するみたいな視線。俺は肩をすくめて、うなずいた。


「俺は大丈夫だ」


 それを合図にしたみたいに、レンも小さく息を吸ってから答える。


「……うん、ある」


 玲奈の表情が、待ってましたと言わんばかりに明るくなる。


「よかった。じゃあさ、近くにゲーセンあるんだけど、行かない? お茶だけじゃもったいないし」


 提案は押しつけがましくなくて、断られても引ける余地を残している。まぁ引くつもりもないし何ならベットまで行くつもりだ。

 レンの方を見ると少し悩んでいた。さすがに急すぎたかと思っていると。意を決したように顔を上げた。


「……行く」

「決まりだね」


 玲奈がぱっと笑って立ち上がる。もう一人の女性、澪も、楽しそうに頷いた。


「じゃ、出よっか」


 店を出る準備をしながら、俺は内心で思う。

 いい流れだ。


 ゲーセンに入った瞬間、音と光が一気に押し寄せてきた。電子音、歓声が混ざり合って、さっきまでのカフェとは別の世界だ。


「最初、あれ行こうか」


 俺が指さしたのは、奥に並ぶプリクラ機だ。派手な装飾の中に、やたら“盛れる”と主張の強い文字。


「え、いきなり?」とレンが小声で言う。

 でも、玲奈が笑って背中を押した。


「いいじゃん、記念。最初に撮っとこ」

 澪も頷く。


 流れで四人、ブースに入る。カーテンが閉まると、外の喧騒が少し遠のいた。

 立ち位置を決めるだけで、レンはぎこちなく足と手が同時に動いてる。


「レン、真ん中でいいよ」

「え、僕?」


 俺が言うと、二人が自然に左右に入った。俺は端でカメラの位置を確認する。画面に映ると、レンの緊張がそのまま顔に出ていて、思わず笑いそうになる。


「はい、三秒前でーす」


 カウントが始まる。

 レンは必死に笑おうとして、結果ちょっと硬い。レンらしい。

 フラッシュ。

 次のカットでは、玲奈がピースを出し、澪さんは少し顎を引いてクールに決める。俺は肩の力を抜いて、指でハートマークを作る。


 最後のシャッターが切れた瞬間、ブースの中に小さな笑いがこぼれた。


「思ったより普通だ……」

 レンがほっとした顔で言う。


「普通が一番だろ」と俺は言う。

 画面に並んだ写真を見て、レンも二人も、同じところで笑った。


 プリクラを出たあたりで、レンの肩から余計な力が抜けているのが分かった。

 さっきまで少しぎこちなかった動きが、今は自然で、視線も前を向いている。いい調子だ。


「ねぇ動画撮っててもいい?」

「いいね、あとで俺のルネットに送ってよ」


 そう言って玲奈は動画をまわし始めた。


 次に足を止めたのはクレーンゲームの列だった。

 澪さんが何気なく並びを眺め、レンの視線が一台に吸い寄せられているのを見逃さない。


「……あれ、好きそう」

 澪さんが、ぽつりと言う。


 レンが見ていたのは、棚の奥に引っかかるように置かれた、小さな動物のぬいぐるみだった。色合いも表情も素朴で、確かにレンの雰囲気に合っている。


「え、分かります?」

 レンが驚いたように言うと、澪さんはもうコインを入れていた。


「こういうのは、持ち方が大事なんだよ」


 操作は無駄がなかった。アームの位置を一度で決め、ためらいなくボタンを押す。

 がしゃん、と音がして、ぬいぐるみが少し動く。


「……もう一回」

 淡々と、でも確信を持った声。


 二回目で、ぬいぐるみはすとんと落ちた。


「え」

「すご……」


 レンが言葉を失い、玲奈が思わず拍手する。

 澪さんは表情をほとんど変えず、ぬいぐるみを取り出してレンに差し出した。


「はい。視線、これに釘付けだったから」


「い、いいんですか?」

「うん。似合うし」


 レンが受け取った瞬間、ぱっと表情が明るくなる。

 その反応を見て、澪さんは少しだけ口角を上げた。


 ゲーセンの休憩スペースで、四人並んで腰を下ろしていた。

 クレーンゲームの戦利品が足元に転がっていて、さっきまでの賑やかさが少しだけ残っている。


 俺は一度レンを見る。

 レンは小さくうなずいた。――任せる、って合図だ。


「今日さ、正直に言うけど」


 俺は視線を二人に向ける。


「俺もレンも、すごく楽しかった。

 それで……よかったらなんだけど」


 一拍置いてから、続ける。


「俺とレンのパートナーになってほしい」


 俺が言葉にした瞬間、空気が一拍、遅れた。


「俺は玲奈とパートナーになりたいな」


 玲奈はきょとんと目を瞬かせてから、次の瞬間には信じられないものを見るみたいな顔になった。


「……え、ほんとに?」


 疑うというより、確認する声だった。

 それも、何度も胸の奥で想像したことが、急に現実になったときの。


「冗談じゃないですよね?」

「本気だよ」


 そう答えると、玲奈は思わず小さく声を漏らした。


「……うそ、だってさ……ただでさえ男の人少ないでしょ?」


 おれもレン以外の男性はほとんど見たことがない。


「その上で、こんな……反則みたいな顔の人に、真正面から″パートナーになって″とか言われるとか……本当に嬉しい」


 澪の方を見ると、彼女は一瞬遅れて反応していた。

 驚きが、ゆっくり感情に変わっていくタイプだ。


「……いいんですか私で」


 静かな声だったけど、視線は真っ直ぐだった。


「澪さんの事いいなって思ったんだ」


 レンがそう言った瞬間、澪の表情がふっと緩む。


「……ありがとうございます」


深く息を吐いてから、控えめに、でもはっきりと笑った。


「選んでもらえるって……嬉しいですね」


 レンの方もうまくいってるようだ。


 告白の言葉が落ちたあと、すぐに誰も声を出さなかった。

 遠くでゲームの電子音が鳴っているのに、ここだけ時間が一拍遅れたみたいだった。


 玲奈が周囲を見回してから、声を落とす。


「……ここ、人多いね。ちょっと視線集まってるかも」


 確かに、通路を行き交う人の中に、ちらちらとこちらを見る視線が混じっている。

 四人の空気が変わったのは、自分でも分かるくらいだった。


「じゃあ、場所変えようか」


 俺が言うと、澪がすぐにうなずいた。


「はい。静かなところの方が、落ち着けそうです」

「じゃあ俺いい場所知ってますよ」


 もちろんラブホテルなんだけどな

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2026年1月21日 18:00
2026年1月22日 18:00
2026年1月23日 18:00

男女比1対100の彼女たちの世界で ののじん @roku_nanahachi

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