第11話 ナンパ
店を出て少し歩いたところで、レンが不意に足を止めた。
「……なあ、アイス食べたい」
「急だな」
「さっきまで試着室で暑かったし、歩いてたら余計に」
そんな理屈とも言えない理由に笑いながら、近くのアイスクリーム屋へ向かう。ショーケースの中には色とりどりのアイスが並び、レンは少し真剣な顔で悩んだ末、結局バニラを選んだ。俺はストロベリーだ。
カップを受け取って外に出ると、夕方の空気が思ったより柔らかい。人通りはあるけど、せわしなさはなくて、休日の街特有のゆるさが漂っている。
「服買ったあとに食べると、なんか特別感あるよね」
レンがスプーンを口に運びながら言う。
「分かる。今日一日、ちゃんと使った感じがする」
「それそれ。無駄じゃなかった感」
並んで歩きながら、ショーウィンドウに映る自分たちの姿を一瞬だけ見る。さっきまで店内で選んでいた服が、自然に街の風景に溶け込んでいた。
レンは新しいリュックを背負ったまま、歩幅を少し大きくする。茶色がかった髪が風に揺れ、足取りもどこか軽い。
目的も決めずに角を曲がり、雑貨屋の前で立ち止まったり、古い本屋を覗いたりする。特に買うものはない。ただ歩いて、話して、時間を使うだけだ。
アイスが少し溶けて、指先が冷たくなる。
それでも不思議と気にならない。
こういう何でもない時間が、思い出に残りそうだ。
俺たちは街をぶらぶらと歩き続ける。
アイスを食べきったあたりで、声をかけられた。
「その服、雰囲気合ってますね」
振り向くと、年上の女性が二人。距離の取り方も言葉も穏やかで、強引さはないが、どうやらナンパのようだ。二人ともそこそこ美人だし男慣れしている。
「モデルさんかと思った。二人とも雰囲気いいよね」
「よかったら、この後お茶だけでもどう?」
レンが一瞬だけ視線を泳がせて、俺を見る。
判断を仰ぐ癖が、まだ残ってる。
俺は肩をすくめて、小さく言った。
「お前が決めていい。こういうのも、こういうのも練習だ」
「……え」
「嫌なら断れ。行きたいなら行け、俺はどっちでもいい」
突き放すでもなく、背中を押すでもなく、選択をそのまま渡す。
レンは少し考えてから、相手の方を見た。
「……じゃあ、お茶なら行きます」
言い切った声は、さっきより少しだけ落ち着いていた。
「いいよ、それで。近くに静かな店あるし」
相手もあっさりとうなずく。
話はそれで決まりだった。
俺は空のカップをゴミ箱に放り込みながら、レンの横に並ぶ。
「無理するなよ。でも、経験はしておけ」
レンは小さくうなずいて、深呼吸をひとつ。
さっきまでの気ままな散歩から、少しだけ違う時間に入った。
それでも悪くない──そんな顔を、レンはしていた。
通りを一本入ったところにある、小さめのカフェだった。
外から見ると落ち着いた雰囲気で、ガラス越しに見える店内も静かそうだ。
「ここでいい?」
お姉さんの一人がそう言って扉に手を掛ける。
レンは一瞬だけ俺を見るが、俺は軽く顎で前を示した。
「行け。俺は横にいるだけだ」
扉が開き、控えめなベルの音が鳴る。
店内は思ったよりも空いていて、午後の中途半端な時間らしい静けさがあった。コーヒーの匂いと、低く流れる音楽。
「四人です」
そう告げると、奥のテーブル席に案内される。
レンは少しぎこちなく椅子を引き、俺は自然にその隣に腰を下ろした。
「緊張してる?」
向かいに座ったお姉さんが、笑いながらレンに聞く。
「……ちょっとだけ」
正直な答えだな、と思う。
でも声はさっきよりちゃんと出ていた。
メニューを開きながら、俺は余計な口出しはしない。
こういう場では、俺が前に出る必要はない。
「何飲む?」
「えっと……紅茶で」
「いいね。じゃあ私もそれにしよっか」
「俺はコーヒーで」
「おっ大人だねー」
会話はゆっくり、角が立たない速度で進んでいく。
少し沈黙が流れたあと、向かいの女性が今度は俺とレンを交互に見て、少し困ったように笑った。
「……なんかさ、二人ともずるいよね」
「ずるい、ですか?」
レンが首をかしげると、もう一人が肩をすくめる。
「タイプは違うのに、どっちも天使みたいに超絶イケメンだから」
その言い方は、比べるというより並べる感じだった。
「レンくんは柔らかくて、近くにいたら安心する系。話しかけやすいし、笑うと一気に印象良くなるタイプ」
レンはまた固まって、反射的に視線を下げる。
「……そんな……」
「で、ハヤトくんは逆。落ち着いてて、大人っぽい。黙ってても目引くし、距離感が上手そう」
今度は俺の方に視線が向く。
「こうやって二人並んでると、バランスいいんだよね。片方だけ目立つ感じじゃなくて」
レンがちらっと俺を見る。
さっきより、少しだけ照れが和らいだ顔だ。
「……言われすぎじゃないですか」
「事実だから」
女性は軽く笑って、カップに口をつけた。
俺は特に否定もせず、ただ一言だけ返す。
「そういう評価に慣れてないだけだよ」
レンは小さく息を吐いて、ようやく苦笑した。
「……確かに」
二人まとめて褒められる形は、変に競わせる感じがなくて悪くなかった。
レンにとっても、俺にとっても。
カップを手にしたまま、向かいの女性たちを一度だけ見た。
距離感も空気も悪くない。無理に踏み込まず、でも関心は隠していない。
──まあ、悪い感じはしない。
こういう出会いを、ただ流してしまうのはもったいない。
俺は小さく息を吐き、会話の続きを聞きながら思う。
いきずりの恋人にするなら、こういう相手でも十分だ。
まぁレン次第だな
「ちょっとトイレ行ってくる」
そう言ってレンの膝をぽんぽん叩く
レンは俺の意図に気づいてくれた
「僕もトイレ」
手洗い場は明るくて、清潔感があった。
水音が一定のリズムで響いて、カフェのざわめきが自然と遮られる。
俺は鏡の前で手を洗いながら、自分の表情を一度だけ確認する。
張りつめすぎていない、でも気を抜いているわけでもない──悪くない。
レンが隣に来て、同じように蛇口をひねる。
鏡越しに目が合った。
「どうだ、正直なところ」
小さな声で聞く。
レンは少し考えてから、口元をゆるめた。
「うん、普通にいい人たちだと思う。話しやすいし、変に距離詰めてこないし」
その言い方に、俺も内心で同意する。
さっきの二人は、余裕があって、こちらの反応をちゃんと待てるタイプだった。
褒め方も押しつけがましくなくて、軽口の中にちゃんと気遣いがある。
「場慣れしてる感じはあるけど、雑じゃないよな」
「うん。緊張はするけど……嫌じゃない」
「レンが嫌じゃないなら、最初のパートナーにしてみるのはどうだ? もちろん向こうが良ければだが」
レンは一瞬だけ目を伏せて、考える。
どうやらちゃんと考えてるようだった。
「……うん」
短いけど、はっきりした答えだった。
「いいと思う。無理してる感じもしないし……ちゃんと話せそうだし」
その言い方に、俺は小さくうなずく。
「どっちの女性だ?」
一人はよく話す。場の空気を動かすのが上手で、笑顔も多い
もう一人は、口数は少ないけど、レンが言葉に詰まると視線を外さず、待つタイプの
どちらも下の名前で呼び捨てにしてくれと言われてる
「澪さんの方かな」
「お前まだ童貞だったよな? そろそろ卒業するのもいいと思ってな。この後ホテルに行くぞ」
「えっ? 今日卒業するの僕!? さすがにいきなり過ぎない?」
「いい機会だろ、今のうちに練習しておかないと、いざベットで女性を前にしたときやり方が分からなかったら大変だろ? 相手はこなれてる所を見るに男性経験はあるだろうし、やり方をやさしく教えてくれるさ」
そう言うとレンは少し悩み始める。
「うーん……じゃあ、ハヤト君と一緒ならいいかな」
一緒ならいいのかよ。この場合4Pという事になるのだろうか? うーんエッチに友達同伴とかどうなのだろうか? こいつも変わってる奴だよな。
まぁいい、背中を押してやろう。エッチを楽しむのが俺一人だと寂しい気もするし、こいつと学園の女子と乱交パーティをやるのも楽しそうだ。
「じゃあ決まりだな、席に戻るぞ」
「うん」
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