第2話 暴黒の獅子 ②

近衛が視線を向ける。


「おっ、烈。やっぱりいたか」


その先には、小柄だが少しガラの悪い男性――烈と呼ばれる人物が立っていた。


「団長、おはようございます!」

元気よく挨拶する烈。


「オーナーもおはようございます!」

月島の方にも挨拶を欠かさない。


「団長が朝からここって珍し────って誰だお前!!」

烈の視線が下から鋭く陽翔を睨む。


あぁーん?と言いながら睨まれ

思わず困惑する陽翔。


「ちょ、ちょっと轟さん! 辞めてください!」

月島が烈にストップをかける。


「この方は私を助けてくれた陽翔さん! 恩人よ!」


烈は一瞬目を細めるも、態度はまったく謝る気がない。


「で、その恩人がなんだってここに」


近衛は淡々と、しかし少し興味深げに口を開いた。


「ちょっと、軽く手合わせをな」


烈はにやりと笑う。


「へぇ、おもしれえ」


準備を兼ねているのか、腕を回し屈伸をして構える。


「俺がやりますよ」


近衛は陽翔に向き直り、視線で「こいつでいいか?」と問いかける。


内心、陽翔は思う。

――近衛さんとやるより、こっちの烈の方が100倍いいに決まってる!

あんな筋肉お化けと戦いたくなんてない。


「もちろん」

満面の笑みで答える。


「そーだな、そしたら…烈は魔法禁止縛りで」

近衛が告げる。


「まっ、ちょーどいいっすね」

烈は余裕の笑みを浮かべる。

小柄ながらも鍛え上げられた肉体が、その自信を圧として放っている。

少し舐められているのも事実だが、現実問題格上だろう。


近衛が陽翔に問いかける。


「マジックルームって知ってるか?」


「もちろん。発動中に受けたダメージは肉体に負わず、魔力に変換されて削られる装置ですよね」

ハルトが答えると、近衛はうんうんと頷く。


「先に魔力が尽きた方の負けだ」

「2人とも準備はいいか?」

近衛は壁にあるスイッチを押し、マジックルームを起動する。


「さっさとやろうぜ」

烈が腕を振り上げ、戦闘態勢を整える。


「お手柔らかにお願いします」

陽翔も構え、呼吸を整える。



「始め!!」


近衛の掛け声と同時に、二人の体がぶつかる。


陽翔はまず身軽さを活かして烈の攻撃をかわす。

小さなステップで距離を取りながら、相手の脇を狙って突きを入れる。



「おっ、速えじゃねえか!」


少し驚いた声を漏らすが、すぐに笑みを浮かべる。


「だが、俺も負けてねえ!」


烈は片手を大きく振り、陽翔の肩口を狙うが、すぐにかわして反撃。

体の回転を利用した蹴りが烈の腹に当たり、バランスを崩させる。


「まだまだ...!」


小さく息を吐き、勢いを利用してさらに前に出る。


「やるじゃねえか、だがこれでどうだ?」


武器を取り出す。手にしたのは大型のハンマー。


「さぁ、気合い入れろよ!」


陽翔は少し後退し、ハンマーを握った烈の構えを警戒する。


「ハンマーとか、物騒なもん使いますね…」


烈の攻撃は鋭く、速さも力も増している。

振り下ろされるハンマーを何とか受け流す陽翔。

だが一瞬の隙に、腕に衝撃が走る。


「くっ…!」


筋肉に衝撃は直接伝わらないが、魔力に変換される感覚が胸の奥でザワつく。


烈はにやりと笑い、さらに連続攻撃。

小柄ながらも鍛え上げられた肉体が、その攻撃に圧力として現れる。


「これでどうだ!」


陽翔は受け流しつつも、体を後ろに飛ばして距離を取る。

両腕を振り回し、烈の攻撃を何とか避けながら、相手の隙を探す。


(ここで引いたら終わりだ…!)


息が上がるが、意識は冷静。


次の瞬間、陽翔は体を低くして相手の下をくぐり、膝で腹を蹴る。


「ぐっ!」


初めてまともに痛みを感じたのか、少しだけ表情を歪める。


陽翔はその勢いで前に踏み込み、連続の肘打ちを叩き込む。

体術では陽翔が優勢だ。


だが、烈もすぐに反撃に転じる。

ハンマーを横に振り、体を回転させた打撃を放つ。

陽翔は避けるが、壁際に追い込まれる。


「オラ!オラ!オラ!」


鋭い眼光で追撃を続ける。


(ヤバい.....体力お化けかこの人!)


烈の攻撃が次第に圧力として重くのしかかる。

陽翔は横にに飛び、呼吸を整える。

烈の筋肉から放たれる自信の圧が、戦闘空間に漂う。


(…この人、本当に強いな...!)


内心、舌打ちしつつも、これ以上防御に回りたくないのも事実。


二人は距離を取り、息を整える。

体の芯に熱がこもり、マジックルームの魔力変換の感覚が胸の奥で鋭く疼く。


(どうする…次の手を考えないと…!)


烈もまた、構えを整え、次の攻撃に備えている。

小柄ながら全身から自信が溢れる。


戦闘はまだ序盤。

これからどちらが優勢を取り、どちらが苦しむのか――

胸の奥で、不安と緊張が入り混じる。



────────────




陽翔は互角に渡り合う烈の攻撃をかわしつつ、反撃のチャンスを窺っていた。

陽翔が仕掛ける。

体術の連携で相手の防御を崩し、膝蹴り、肘打ち、肩打ちと繋げる。


(今だ…!ここで一撃を…!)


全身の力を込め、烈に向かって飛び込む。


「ヤバっ……!!」


ハンマーを握った烈の手に、オレンジに弾ける魔力。

そう、禁止されていたはずの魔法を、烈は咄嗟に付与していたのだ。


「チッ!!」


ハンマーが振り下ろされ、爆発が起きる。

陽翔は反応が間に合わず、吹き飛ばされる。


地面に倒れ込む陽翔。息が荒く、胸の奥で衝撃と魔力の痛みが走る。

視界の端で、烈がバツの悪そうな顔をしている。


(くそ!そんなのありかよ……ルール違反じゃん…!)


悔しさと驚きが入り混じり、頭の中で呟いた。


戦いの幕はここで閉じた。

体術で善戦したものの、烈がルールを破ったことで逆転されてしまった。



(クソ……魔力切れで意識が……)


悔しい気持ちを抱えながら意識がきれた────







「.........」


天井の蛍光灯がぼんやり揺れて見える。体中が重く、腕や足に力が入りにくい。


横に座る月島の顔が心配そうに近づく。


「陽翔さん……大丈夫ですか?」


その瞳は真剣そのもので、胸の奥から安心と安堵が湧いてくるのが分かった。


部屋の奥から、烈が頭をかきながら小さく「すまん……!」と謝る声。

手を振りつつ恐縮したように立っている。


近衛は淡々と立ち、しかし目はしっかりと陽翔を見据えていた。


「体術、悪くなかったぞ」


その言葉には、評価と認める力が確かに込められていた。


だが、床に横たわる陽翔の胸には、どうしても悔しさが残っていた。


ルール違反で勝った烈への怒り、咄嗟に力を出せなかった自分への苛立ち。


近衛はふと微笑むように口角を上げた。


「明日からよろしくな」


言われた瞬間、陽翔は思わずポカンとした顔になる。


近衛が差し出した紙を見下ろす。

先ほど仮パスを取るためにサインした紙――だがよく見ると「入団契約書」とはっきり書かれていた。


「えぇえぇ!!!?」

思わず声が漏れる。


「いやいや、これ詐欺じゃないですか!?

なんとか罪とかつきませんか!?」


陽翔は慌てて手を振り、抵抗しようとする。


近衛はゆったりとした笑みを浮かべ、紙を指で軽く押さえながら言った。


「でもまぁ……サインしちまってるからなぁ」



陽翔は頭を抱え、唖然としつつも、床に横たわったままこの現実を受け止めざるを得なかった。



陽翔は床に横たわったまま、紙をじっと見つめる。


「いや、待ってください……俺、本当に、魔法を人に向けて使えないんです! それでも……本当に、いいんですか?」


体の力も抜けきったまま、必死に声を震わせる。


月島がそっと膝をつき、陽翔の肩に手を置く。


「陽翔さん……大丈夫、大丈夫よ。あなたがどんな状況でも、私たちは陽翔さんを支えるわ」


瞳には信頼と優しさが宿っている。


烈は腕を組みながら、にやりと笑った。


「まあ、魔法使えねぇ奴でも、お前の体術があれば充分戦力になるってことじゃねえか?」


軽く言うが、悪意はない。むしろ期待を込めているようだ。


近衛は紙を指で軽く押さえ、静かに言った。


「魔法が使えないのは構わん。君の体術と判断力は十分評価した」



「本当に、本当にいいんですね!?魔法撃てないんですよ!?こんな……俺でも………!」



「あぁ、勿論だ。何より君は困っている人を無条件で助けた」


近衛が話す中、月島も、「そうそういい人ですもん!」

と同調する。


そして近衛は俺の目を真っ直ぐに見つめ────



「────優しく勇気のある君と一緒に働きたい」



陽翔は息を整え、まだ少し躊躇しながらも、心の中で葛藤が和らぐのを感じた。



「……わかりました……よろしくお願いします」

小さく声に出して、涙がこぼれそうになるのを耐え、紙に目を落とす。



月島は微笑み、陽翔の手を握り直す。

「これから一緒に、一緒に頑張りましょう!」

その声には、安心感と期待が混ざっている。


烈は少し肩をすくめ、いたずらっぽく笑った。


「また手合わせしようぜ!勿論、縛りはありでな!」


「どの口が言ってんだ!このド畜生!」


「ほんとに!ほんとに守ってくださいよ!烈さん」


2人にツッコまれて「お、おう」とちょっと引き気味の烈。

本当に次からは気を付けていただきたいものだ。


近衛はゆったりと口角を上げて頷く。


「じゃあ、明日から本格的によろしくな」


陽翔の胸には、まだ少し悔しさも残るが、それ以上にこんな自分を受け入れてくれた嬉しさが勝っていた。


こうして、陽翔は不安と葛藤を抱えながらも、暴黒の獅子に加入することになった。


そして、この日を境に、陽翔の新しい日常が静かに、しかし確実に始まった──。




────────

キャラ紹介

轟 烈 とどろき れつ 22歳

165cm

小さめのヤンキー風

刈り上げて前にとんがらせるように前髪をあげている

髪色 赤。

瞳 黄色

爆破魔法

武器

名前:轟撃ごうげき

形状:両手持ちハンマー(片手でも振れる)

特徴:

•両手振り:威力MAX、範囲広い、当てづらい

•片手振り:威力控えめ、当てやすい

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る