第83話
「帰還?」ラサエルの表情が一瞬にしてゆるんだ。
それは素晴らしい! 彼の本音が心の中で喜び叫ぶ。
しかし、それはレイヴンにとって──?
「うむ。マルティコラスを捜索するというのは、実をいうと今回の彼へのミッションには含まれていないことなんだ。彼は──ギルドによる卑劣な罠だと知った上で、それでも我が星産動物であるマルティを見捨てず、自発的に捜し続けてくれている」
「ええ」ラサエルは深く頷く。「レイヴンならきっと、それを選択するでしょうね」
「加えて今回見つかった……とされるマルティコラスは、もうすでに……大変悲しむべきことだが、ギルドの手に渡っている。いわば『よその生き物』だ」
「──」ラサエルはすぐに肯定することができなかった。実際ハヤミの言う通りだろう。不幸な運命だが、マルティはもう、ギルド所有の動物になっているのだ。
だけどレイヴンは──
「レイヴンは否定するかも知れない」ハヤミはさすがにそれを予測していた。「だがこれは、我々本社の決定事項だ。マルティコラスの捕獲は中止し、本来連れて帰るべき動物たちだけを連れただちに本国へ帰還すること。彼にはそれに従う義務がある」
「──そう、ですね」ラサエルはくぐもった声で返事をした。
「それにね、ラサエル」ハヤミはもう少し話を続けるつもりのようだった。「モサヒーから、レイヴンに伝えて欲しいと頼まれた事があるんだ」
「モサヒーから?」ラサエルは訊き返した。
「うむ」ハヤミは頷く。「彼はこの度、大いなる決断をしてくれた。英断とも呼ぶべきものだ。彼は地球産動物であるシャチの軍勢と合流し、機を見てともにギルドへの先制攻撃を実行するというプランを我々に呈示してくれた」
「モサヒーが?」ラサエルは訊き返した。「しかし、彼もレイヴンと同じ立場、本社所属の個体ですよね? そんな義務はないのでは」
「彼によれば、これには三つの有効な遂行意義がある」ハヤミは触手の指を三本立てた。「まずはマルティコラスに対する誘拐行為への報復として。二つ目はレイヴンに対する拉致試行に対する懲罰として。三つめは、地球産動物たちの協力に対する謝礼として、だ。モサヒーはこれらを実行することを本社の意志として決定して欲しい、そしてレイヴンにも伝えて欲しいと言ってきた」
「──」ラサエルはただ大きく息を吸い込むしかなかった。確かにそれは、偉大なる英断だ。
しかし、それはレイヴンにとって──?
◇◆◇
「なんですって」レイヴンは最初にそう叫んだ。「今すぐ帰れと? それはこの僕に対して言っているんですか?」次にそう確かめた。
「そうだ、レイヴン=ガスファルト」ハヤミは微塵もゆらがずに肯定した。「君に対する、本社からの正式な辞令だ」
「マルティはどうなるんです?」次にレイヴンは質問した。「見捨てろと仰るんですか?」そして本社の腹の中に探りを入れた。
「見捨てはしない」だがハヤミの答えはやはりゆらぐことがなかった。「モサヒーが助けに行く」
「モ」レイヴンの本体表面に、特別な電気信号が走った。「まさ、か」
「そう」ハヤミの声は穏やかだ。「これはモサヒー本人からの意思表示であり、彼は本社から君に伝えてくれと、私に緊急通信を寄越したのだ」
「──」
ここにきてレイヴンは、やっと知ることができた。自分が良いやり方だと思っていたものは、実はレイヴンの単なる独りよがりにすぎず、事態はもうすでに、彼一人が抱えられるようなシンプルな仕事などではなく──
本社、本国、そして幾星霜をもまたいだここ地球、そして汎銀河組織ギルドまでを含む、はかり知れぬ膨大なスケールで動いている重大な事件なのだと。
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