第82話

 それはモサヒーの『機転』に他ならなかった。

 レイヴンとの交信は、レイヴンの言う通り開始後地球時間で一分程度経過すると、ギルド員コードセムーに気づかれ、通信帯に入り込まれ、丸聞こえになる。それだけでなく、実質彼女の独壇場となる。

 レイヴンは確かにそれを回避すべく、ごく短時間で、レイヴンからの一方的な情報送信を行うと告げ、そのようにした。

 お陰でモサヒーも、シャチらが今どんな戦略で動いているのか、現状どこまで進捗しているのか、そして今回レイヴンが彼らに提言した事は何か、そういった情報をすべて知ることができた。

 しかし彼は満足していなかった。

 それは何故かというと、言うまでもなく今この状況ではモサヒーからレイヴンに、逆方向のメッセージを送ることとができないからだ。レイヴンに返事をすることも、質問や確認をすることも、そしてモサヒー自身が思いついた『方策』を提案してみることも叶わない。

 自分がレイヴンに信号を送ったとすると、自分の僅かな挙動によりそれは恐らく一分よりも遥かに短い時間でセムーに気づかれるだろう。もしかすると一瞬の内にばれてしまい、あたかも彼女の極小コピーがモサヒーの体内に潜伏しているかのごとく、送信内容をほとんどすべてつかまれてしまうかも知れないのだ。

 ならば。

 モサヒーは上空、遥か上、大気圏を抜けたさらに高度へと設定を向けた。

 本社への緊急通信ポートを開くのだ。

 彼は慎重に記憶帯から必要なログをまとめ直し、可能な限り信号量を抑えた上で、それを投げ飛ばした。

 何食わぬ顔で浮揚推進しつつそれを行うのは、モサヒーだからこそできる事だっただろう。

 それでもセムーは──この恐るべき精鋭ギルド員は、一瞬モサヒーを見た。

 モサヒーは目をそらさず、むしろほんの一瞬だけ彼女を見つめ返した。

 するとセムーはすぐに頭の双葉を高速回転させ始め、恐らく幸福を感じながら、元通り前方を向いてくれた。

 モサヒーはそのようにして、本社へ事の次第と自分の考え、そしてそれを本社からレイヴンへ伝えて欲しい旨を、送ったのだった。


          ◇◆◇


「そうなんだ、ラサエル」ハヤミは大きく頷き、ラサエルを安心させようとした。「地球の動物たちは、恐るべき、そして最高の作戦でギルド員たちを地球から殲滅しようと企てている。その作戦はレイヴンにも語られ、今なんと、レイヴンとモサヒーの方からも、その作戦に協力したいと提言している状況なんだ」

「レイヴンが?」ラサエルは再び触手を震わせた。「そんな、レイヴンがギルドと闘う必要があるんですか?」

「そこが、レイヴンらしい所だと思わないか、ラサエル」ハヤミは何事か考え込むように触手を持ち上げ嘆息した。「ただ護られ助けられただけで、彼ははいさようならと立ち去るような遺伝的性質ではないだろう?」

「──」ラサエルは居住壁の高分子ケースを見た。その中で楽しそうにダンスをするレイヴン。確かに、その通りだ。レイヴンはだからこそ、地球の動物たちからも愛され、信頼され、情報を分かち合えるのだ──「それで」再びハヤミを見る。

「うん」

「ハヤミさん、あなた方は今現在、この状況に対してどう動こうと算段しているんですか?」ラサエルはずばりと訊いた。「地球の動物や、レイヴンやモサヒーに、まさか任せっきりにする気ではないですよね?」

「もちろんだ」ハヤミは早口で叫んだ。「我々は」しかしそこで言葉が止まる。

「──我々は?」ラサエルはまっすぐにハヤミを見たまま促した。

「うん」ハヤミは咳払いし「これは、あくまで今ここだけの話にしておいて欲しい。まだ詳しく決まったことではないのだが、我々の考えとしては、レイヴンには可及的速やかに本国へ帰還してもらうようにしたいと思っている」

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