どうぶつたちのキャンプ 2

葵むらさき

第81話

 ラサエルは二人の子をサブ触手でそれぞれ抱きながら居住ゾーンの清掃を行っていた。

 子らはリズミカルに揺れる腕の中ですやすやと昼寝モードに入っている。

 ふと居住壁を見やると、以前作成してもらった家族四体のフィギュアが高分子ケースの中で静かに、だが楽しそうに浮揚している。

 もちろんその中にレイヴンも存在している。

 レイヴン。愛するパートナー。

 自分より生命活動歴は短いのに、どうしてか自分のことをいつも護り支えてくれようとする。本当なら自分の方がレイヴンに対し、保護機能を最大限発揮して、彼には心行くまで甘えてリラックスしてもらうべきなのに。

 けれど実のところ、大いに甘えさせてもらっているのは自分の方だ。

 ああ、レイヴン。いつもそうしてきた。

 君は家族を、本気でまるごと護るつもりでいるんだよね。

 その時、居住ゾーンに自律移動殻が接続されたという信号が検知された。

「やあ、ラサエル。久しぶりだね」

 聞こえて来た声は、ハヤミのものだった。

「ハヤミさん?」ラサエルは清掃の触手を止め、殻の接続された居住壁域に向けて返答した。「お久しぶりです。突然どうしたんです?」しかし訊ねるまでもなく、ハヤミの来訪目的には察しがついた。

 もちろん、レイヴンのことだ。

 我が家の大切な守護担当は、明らかに予定より遥かにオーバーして地球滞在を強いられている。そう、本当なら今頃はもうとっくに、家族四人で再び寄り添い、触れ合い、冗談交じりの信号を交わして笑いながら、リラックスして甘え合っていたはずだ。

 さてハヤミは、どう言い訳をするつもりでここに来たのか?

 ラサエルはそんな本音を上手に本体内にしまい込み、居住壁域を溶解してハヤミ本体の透過を許可した。

「やあ、突然すまないね。そしてレイヴンの地球滞在長期化については、まことに申し訳なく思う。同時に彼の、業務に対する忠誠心と誠実さを評し、次の恒星回転期ボーナスについては、少なくとも過去最高の比率で計算されることが確定している」

「ほう」ラサエルはまんざらでもないという分子を放出させた。「それはとても喜ばしいですね。だけど今日の用件は他にもあるんでしょう?」

「ああ」ハヤミは突然、それまでの社交的膨張状態を解消し、実質五分の三ほどのスケールに本体を縮こまらせた。「そう……ラサエル、君は知っているのだったかな、ギルドという汎宇宙組織の存在を」

「ギルド、ええ」ラサエルは頷いた。触手の中の子が少しだけ向きを変えるが、起こすことはなかった。

「うん」ハヤミも頷いたが、すぐに次の言葉を発して来なかった。

「ギルドが、どうかしたんですか?」ラサエルは、触手が震えないように注意しながら訊ねた。まさか、レイヴンに何か? それでもその言葉は言えない。

「その」ハヤミも大分、言葉を吟味したのだろう。やけに慎重に会話を続ける。「実をいうと、君の大切な家族、この可愛らしい子たちの父親である、レイヴンが……ギルドに、つけ狙われているらしいんだ」

「──」ラサエルはどう言えばいいのか考えることもなく「どうして?」と言っていた。「何故レイヴンが? それでハヤミさん、あなた達はどのように動いているんですか?」

「ああ、もちろんすでに対策を講じているよ、ラサエル」ハヤミは、彼の生命活動歴数と職責グレードからすれば滅多に自ら振り回すことはしないのだろうその触手を、恐らく何恒星回転期ぶりにか忙しく蠢かした。「そこは安心してくれていい」

「でも、どうして──」ラサエル自身も自らに『落ち着け、大丈夫だ』と強く言い聞かせるが、その実今にも腕に抱いた子どもたちごと床に頽れてしまいそうだった。

「地球に、我々の信頼も厚い優秀なエージェントがいる。モサヒーという者だ。彼は地球に長く滞在していて、レイヴンら動物保護クルーが地球に行った時にはサポートもしてくれている」

「モサヒー……ああ」ラサエルはその名をレイヴンから聞かされたことがあった。

「そう。彼からこの度、緊急通信として報告が来たんだ。我々はそれですべてを知った。端的にいえば、ギルドは今我が星の動物マルティコラスを捕獲しており、その世話役としてレイヴンを捕まえようとしている。だが地球の動物たちはギルドの所業をよく思っておらず、奴らに闘いを仕掛けようと算段し、そして素晴らしいことに彼らは、レイヴンを助け、護ってくれている」

「え──」ラサエルは息を呑んだ。

 地球──

 レイヴンが、あれほどまでに嫌っていた、惑星。

 そう、それだからこそ今回の出張も、さっさと終わらせてすぐに帰って来るものと思っていた。

 しかしその星のもとで、予期せぬアクシデントが起き、危機にさらされているレイヴンを、地球の動物たちが助けている──

 地球の、動物たちが?

「どう、して……」ラサエルはやはりそうとしか言えずにいた。

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