街へおでかけ

太陽の光が草花を照らす朝。フェルネスは朝食のパンをかじった。

「奥様〜。コーンスープとコンソメスープ、どちらに致しますか?」

「そうね…。コンソメスープにするわ」

「承知しました」

フェルネスは広いダイニングで1人朝食を食べていた。グラジオラスは朝から宮殿の主護衛をしているそう。

「奥様、こちらコンソメスープになります。」

音を立てずテーブルに着地したコンソメスープをスプーンで掬って飲んだ。

「奥様はお昼間何をなさっているのですか?」

「そうねぇ…。色々よ。本を読んだり草花を眺めたり。庭は面白いわ。雨が降っても綺麗なんだから」

「奥様はロマンチストなのですね。…そうでした、奥様、本日お出かけに参りませんか?」

「お出かけ…。たまにはいいわね。行きましょう」

「そうと決まれば早速支度しましょう!食器、片付けてきますね」

「ふふっ。せっかちね。」

そう言いながらも、フェルネスは最後の一口のパンを口に入れた。


赤茶色のドレスに身を包み、玄関先に降り立った。

サザンカもクラシカルなメイド服にコートを羽織った姿だ。

「では参りましょう!」

敷地内に停められた馬車に乗り込み、街中まで出る。

「グラジオラス様もお忙しくてこんなお出かけ出来なかったので嬉しいです〜」

フェルネスも久しく街の娯楽には触れていなかったので楽しみであった。

馬車が止まり、2人は馬車を出た。

「どこ行きます?お洋服とか見に行きます?」

「そうねぇ…。街のことはよく知らないからサザンカに任せるわ」

「分かりました!お任せ下さい!」

手を引かれて着いたのは、質素な感じの服屋だった。

「へぇ…。なんだかシンプルね」

「奥様は華やかなイメージがあるのでこういうのも着てみてほしいなって」

店内に入ると、確かにパニエ少なめのドレスが多かった。

「こういうのどうですか?」

サザンカが持ってきたのはエメラルドグリーンのドレスだった。

「あまりこういう色のは着ないわね」

「奥様の髪の色と同系色のドレスが多いですからね。でもこういうグリーンは奥様の髪色の補色なんです。補色を取り入れることで互いの色を目立たせて鮮やかにみせるんです。」

サザンカの話にフェルネスは感動した。

「へぇ…。美術はあまりやらなかったから知らなかったわ。それにしても分かりやすい説明ね」

「ありがとうございます」

エメラルドグリーンのドレスを購入し、店を出た。

「お次はどうしましょう?オススメのケーキ屋があるのですが?」

「いいわね。そこにしましょう」

歩き出した時、フェルネスの横で3歳くらいの男の子が転んでしまった。

「大丈夫?」

フェルネスは男の子に声をかけた。

すると向こうから母親らしき女性が走ってきた。姿は黒いシミが残るワンピースだった。平民族なのだろう。

「申し訳ありません!貴族様に助けていただくなんて…。ご要望のことはいたします!」

深く深く頭を下げた。

「顔をあげて!子供は目を離さないこと。男の子なら特に。手は繋いであげて」

しかし母親は渋った。手に荷物を持っていたし、背中に赤ちゃんがいた。

「…送っていきましょうか」

「えっ、奥様!?」

「何か問題が?まだ針が10を差してるわ。」

「…分かりました。馬車の手配を致します」

「ありがとうございます…!」

母親は何回も何回も頭を下げた。

サザンカが手配した馬車に母親と男の子を乗せた。

「お家はどこの方で?」

「ハーベストの方です…」

「ならあまり遠くならないわね。良かったわ」

「本当にありがとうございます…!」

馬車は2人を置いて出発した。

「奥様ってばお人好しですね。どこかの平民を助けてしまうなんて」

「人助けは当たり前よ。ただ放っておけないだけ」

サザンカはフェルネスの横顔をしばらく見つめた。

「奥様、馬車がありませんがどう致しますか」

「電車で帰ればいいじゃない」

サザンカが絶句していると、後ろから声がした。

「お前たち、そこで何をしている」

グラジオラスだった。格好的に仕事の帰りだろう。

「馬車の手配が出来なくて電車で帰ろうとしていたの」

フェルネスが背を向け歩き出した。グラジオラスはその肩を掴んだ。

「馬車なら私のがある。それに乗っていけ」

「グラジオラス様…」

「グラジオラス様…!」

フェルネスの嫌々な表情に怪訝な表情をしながらも馬車の待つ場所まで歩いた。

3人で乗り込み、馬車が出発した。

「どうしようかと悩んでいたところでした〜!奥様を電車に乗せるわけには行きませんでしたから」

「なんでよ。電車くらい乗れるわ」

「平民…だけではないが財宝、下手しては身体を狙う不届き者もいる。フェルネスは危機感がない。」

グラジオラスは窓で外の様子を見ながら答えた。

「そうですよ奥様〜!もしそうなってしまったら大変なんですから〜!」

サザンカがフェルネスに抱きついた。

「ちょ、ちょっとサザンカ…」

フェルネスがサザンカを引き剥がした。

「そういえば、街に出て何をしていた?」

「えっ…。買い物とか、それくらいですわ」

「…そうか」

馬車は家に向かって走った。


読んでいたファンタジー小説が読み終わり、暇になったので昨日の夕食時間より早めにダイニングに来た。

ドアノブに手をかけたが、中から声がしたので耳をすましてみることにした。

「…いですか?奥様は見ず知らずの平民を助けるほどの方です!私はあんな貴族を見た事がありません!絶対に手放してなんていけませんよ」

サザンカの熱弁に圧倒されながらも話をしているのはグラジオラスなのだろうと予想がついた。

(嫌ね。絶対に実家に帰ると決めているのに。こんなこと言われたら帰りずらいじゃない)

それでも耳をすましたままにしておいた。

「…そんなこと言われなくても、手放すつもりなんてない」

その声にフェルネスは咄嗟に部屋に戻った。

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