第3話 最近ダンス上手い人多いよな。

 文化祭の準備は、着実に進んでいた。


 俺は、1日目は見事ダンス部隊にメンバー入りでき、2日目は脇役の座をもらっていた。そのため、俺は毎日練習に励んでいた。


 六里も目立ちがり屋なので、ダンス部隊に加わっており、2日目の劇も俺同様脇役の座をもらっていた。文化祭に人一倍興奮している彼は、練習中に騒いでは女子にギャーギャー言われている。


 平和はやっぱりどちらにも不参加を決め込んでいた。文化祭実行委員の椎川にそれこそ文句を言われていたが、頑なに譲らなかった。


 その代わり、準備は頑張っていた。2日目の劇なんかは衣装から手作りなのだが、彼が殆ど手掛けてくれている。しかも、売り物のような完成度の高さで次々と完成させていた。


 「ピースよ、ミシンばかりで苦しくはないか?」


 女子にダンスが「下手くそ」と言われ凹んだ六里が無言でミシンを使っている平和に声を掛けた。


 「気持ち悪い言い方すんな。用件を言え」


 「双郷さん、俺とダンスして」


 ダンスの練習をしている人ではなく平和に言うのはどうなんだよ。


 とは思ったが、ぶっちゃけダンス部隊は全員で10人いるが、男子5人は本当に下手くそだった。全員が下手くそすぎて逆にネタになるのでは? と言われるレベルである。悔しいが、俺もリズム感がないためダメだった。


 しかし、不幸中の幸い、一番下手なのは確実に六里だ。


 平和は手を止めて大きな溜め息を吐いた。


 そしておもむろに席を立ち、六里の腕を引っ張る。


 「そもそもお前、ちゃんと覚えてないだろ。右も左も覚えてねぇじゃねーか」


 「いや、だって意外と難しいのよこれが」


 「あっそ」


 そこから、何故か平和と六里の個別レッスンが始まった。平和はただ他の人の練習を見ていただけなのに、完璧に全部覚えていた。


 「俺も! 俺にも教えて!」


 「はあ!?」


 俺も二人の様子を見ていて慌てて教えを乞う。このままでは六里が上手になってしまう。俺が一番下手なのは嫌だった。


 「……お前らもミシンやれよ」


 「ミシンできねぇ!」


 「俺も家庭科2だったけどいい?」


 「いや、もういいわ……」


 

 「双郷さ、そんだけ踊れるなら一緒にやろーよ」


 いつの間にか男子5人全員が平和に教えてもらう形になり、1時間もすると皆それなりにまともになっていた。


 その様子を見ていた椎川穹美が水筒のお茶を飲んでいる平和に声を掛ける。


 「やらねぇ」


 「何でそんなに人前出たくないのさー。いいじゃん、上手だよ本当に」


 ダンスを習っている椎川に言われるのだから本当に上手なのだろう。


 褒められてもなお、平和は嬉しそうな顔ひとつしなかった。学園でもそうだが、平和は人からの評価に関心を示さない。自分が正しいと思うことだけをやっている節があるため、そこに他人の評価など要らないとでも言いたいのだろうか。


 「誰もが目立ちたいわけじゃねーんだよ。ソイツらもマシになったからいいだろ」


 「まあ、それはいいけどさ。でも、せっかくの文化祭なんだよ? 来年は全員が同じクラスになることはないんだしさ。私はさ、このクラスの20人が活躍できる文化祭にしたいんだ。もちろん、双郷もめちゃくちゃ服作ってくれてるし、いっぱい頑張ってくれてるけど。本番もできれば表で頑張ってほしいって思うんだ。双郷はできないわけじゃないでしょ」


 「椎川も本当に真面目だよなぁ」


 俺の隣で汗を拭きながら六里が言う。俺は頷きつつ、平和と椎川の方を見ていた。


 正直に言えば、俺も椎川の意見に賛成だ。できるだけ皆2日間のどちらかは参加するように先生からも言われていたし、その方が楽しいとも思う。


 「お前の言い分も理解はできるが、やりたくねぇからやらねぇ」


 「えー」


 「……放っておけよ」


 平和はそう言うと、教室を出ていった。鞄は置いていっているから帰ったわけではないだろう。


 俺は、取り残された椎川に声を掛けた。


 「椎川、無理強いはしない方がいいって。多分、何言ってもやらないから」


 「でもさぁ、雪名だって出てほしくないの? ダンスも上手だしさ。劇だって器用だから多分上手にやってくれるし。アイツが出てくれたらもっと楽しくなるし完成度も上がると思うんだ」


 「でも、本人にやる気がないんだから仕方ないって。準備はいっぱいしてくれてるし、それでいいってことにしようぜ」


 「うーん」


 椎川は浮かない顔をしていたが、その後は平和が戻ってきても特に何も言うことはなかった。

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