第2話 屋敷の違和感
屋敷の中は、予想以上に静かだった。
俺は窓から侵入し、廊下に降り立つ。足音を殺し、気配を消す。壁に沿って移動しながら、周囲の様子を探る。
だが、妙だった。外部に比べ内部の警備が手薄過ぎる。
まるで、侵入者を想定していないかのような――いや、違う。侵入されることを想定しながらも、それほど恐れていないような、そんな空気があった。
足を止め、耳を澄ます。
遠くで話し声が聞こえる。警備の者たちだ。俺は物陰に身を隠し、その方向を確認する。二人。松明を持って、こちらへ向かってくる。
距離を測る。あと十数歩。
俺は天井の梁へと跳び上がった。体を張り付かせ、呼吸を最小限に抑える。二人の警備が真下を通り過ぎる。
「……こんな巡回、意味があるのかね」
「気持ちはわかるが、長からの指示だ。気を抜くなよ」
「分かってるさ。ただ、また来たところで……」
声が遠ざかっていく。
俺は梁から降り、再び廊下を進む。今の会話が気にかかった。「こんな巡回」「また来たところで」――以前にも誰かが侵入したことがあるのか。にも拘らず会話からは気を引き締めている様子もない?……いや、考えても仕方がない。今は任務を遂行するだけだ。
廊下の突き当たりで、階段を見つける。下へ続く階段だ。おそらく、囚われている人物は屋敷の奥深く、人目につかない場所にいるはずだ。
俺は階段を降りようとして――気配を感じた。
即座に身を翻す。苦無が、さっきまで俺のいた場所を掠めた。
「侵入者だ!」
声と共に、三人の忍びが姿を現す。黒装束に身を包み、それぞれが武器を構えている。待ち伏せだった。
「掛かれ!」
言葉と同時に、三人が動いた。
一人目が正面から斬りかかってくる。俺は体を沈め、その下を潜り抜ける。同時に二人目が側面から苦無を投げつけてきた。首を傾け、紙一重で躱す。三人目は俺の背後を取ろうと回り込む。
間合いを取る暇はない。
俺は床を蹴り、壁に足をかけて跳躍した。宙で体を捻り、二人目の忍びに苦無を投擲する。彼は腕で防いだが、その隙に俺は着地し、一人目との距離を詰めた。
刃と刃がぶつかり合う。
火花が散り、金属音が響く。だが、俺は力を入れず、相手の力を利用して体を流す。そのまま肘を相手の顎に叩き込むと、彼は体勢を崩した。
三人目が背後から迫る。
振り向かずに、俺は煙玉を足元に叩きつけた。煙が瞬時に充満し、視界を奪う。咳き込む声が聞こえた。俺は煙の中を駆け抜け、階段へと滑り込む。
「逃がすな!」
背後から声が追いかけてくる。だが、俺はもう階段を降りていた。
一段飛ばしで駆け下り、下層へと進む。追っ手の足音が響く。距離は縮まっていない。むしろ、少しずつ離れている。
やがて、階段が終わり、長い廊下に出た。
松明の明かりが、等間隔に並んでいる。その明かりの合間を縫うように、俺は走る。角を曲がった廊下の先で、床の違和感に気づく。
――罠、だな。
俺は足を止め、床を確認する。わずかな凹凸。そこに糸が張られていた。
恐らくは、踏めばどこからか矢か苦無でも飛んでくる仕掛けだろう。
だが、やはり妙だ。
こんな罠まで仕掛けておきながら、警備の者たちの動きはどこか鈍い。
追手たちの気配も途中から感じなくなっていた。
まさか、これも油断を誘う罠か?であれば、この先に何か――
そこまで考えかけて、俺は首を振った。先入観は余計な隙を生む。俺はただ任務を遂行すればいい。
罠を越え、さらに奥へと進む。
さらに複雑になる廊下を慎重に進み、しばらくして俺は足を止めた。
――静かだ。先ほどまでの喧騒が嘘のように、静寂が支配している。
俺は直感した。おそらく、標的のいる場所が近い。
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