【21:07】閉会 **後年注釈

会議は静かに終わった。参加者たちは資料を持たずに部屋を出た。紙の資料は、テーブルの上に残された。


倫理顧問Cが最後に振り返り、記録者に尋ねた。


**C**: 「この記録は、公開されますか」


記録者は答えなかった。ただペンを置いた。



ーーー



【後年注釈】(制定30年後)


本合意以降、無資格観測による確定事象は急増した。


初年度: 124件

5年後: 1,802件

10年後: 18,473件

20年後: 統計取得不能


しかし当時の議事録において、誰がその結果を予見していたかは不明である。


出席者五名のうち、


- 主任研究員Aは制定後三年目に観測補助員として再配置された。理由は記録されていない。

- 応用技術主任Bは制定後七年目に失踪した。捜索は行われなかった。

- 行政代表Dは制定後十二年目に昇進した。現在も中枢で勤務している。

- 設計補佐Eは制定後二年目に退職願を提出したが、受理されなかった。その後の消息は不明。

- 倫理顧問Cは制定後一年目に辞任した。辞任理由は「個人的事情」とされている。


記録者の名前は、全ての記録から削除されている。


なお、本記録を読了した者がこの社会の成立を理解した時点で、歴史的因果はすでに確定している。


あなたが今この文章を読んでいるという事実が、この制度の正当性を——少なくとも統計上は——補強している。


観測されたものは、存在する。


存在するものは、正しかったことになる。


それが、我々の社会である。


ーーー


### 【追記】(制定35年後・削除予定)


この追記が残っているかどうかは、あなたが読む時点での確率に依存する。


もし読めているなら、削除は失敗した。


もし読めていないなら、この文章は存在しない。


会議室の記録カメラには、六人目の人物が映っていた。


しかし議事録には、五人としか記載されていない。


六人目は誰だったのか。


それとも、五人のうちの誰かが、実は存在しなかったのか。


確認する方法はない。


なぜなら、記録カメラの映像は—— 


**[以下三行、判読不能]**


---



※本文書の複製、引用、再観測は制度により制限されています。

※本文書を読了した時点で、あなたは観測者として登録されます。

※登録の取り消しはできません。


**——記録は、ここで途切れている。**

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観測者効果 鳴貍 @Naricist

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