#六
一週間が過ぎた。
私は毎日、見続けた。
路地の人物。
事故現場の車。
病室のベッド。
高層ビルの屋上。
すべて、未確定。
私が見ることによって、それが確定する。
件数は増えていった。
最初は一日三件だったのが、五件、八件、十二件。
不思議なことに、慣れていった。最初の数日は、ヘッドギアを外すたびに手が震えた。だが、四日目には震えが止まった。一週間後には、何も感じなくなった。
映像を見る。
確定する。
休憩する。
また見る。
それだけの繰り返し。
休憩室では、他の観測補助員と顔を合わせることもあった。皆、静かだった。会話は少ない。「今日は何件?」「十件」「そうか」それだけの会話。誰も、自分がどうやってここに来たのかを語らない。
食事も、端末が管理している。最適化された栄養バランス。適切なカロリー。精神安定を促す成分。すべてが計算されている。
「適応が早いですね」
管理官が言った。
「あなたは優秀です。このままいけば、正式な観測員への昇格も可能です」
昇格。
それは、褒め言葉のはずだった。
だが、私は何も感じなかった。
ただ、見る。
確定させる。
それだけの日々。
ある日、休憩中に、隣の部屋の職員と話した。
彼も観測補助員だった。
元は教師だったという。
「ある日、生徒が屋上から落ちるのを見てしまってね」
彼は淡々と言った。
「助けようと思ったんだ。でも、間に合わなかった。それで、観測犯になった」
「……後悔していますか?」
「わからない」
彼は首を振った。
「今の方が、楽かもしれない。何も考えなくていい。ただ、見るだけだ」
「それは、仕事ですか? それとも……」
「罰?」
彼は笑った。
「どっちでもいいよ。もう、区別がつかない」
彼はコーヒーを飲み干すと、立ち上がった。
「次の映像の時間だ。また後でな」
私も、自分の部屋に戻った。椅子に座り、ヘッドギアを装着する。映像が流れ込む。今度は病室。ベッドに横たわる老人。モニターの波形が乱れている。私は見る。確定させる。通知音。確定。
何も感じない。
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