#四

地下五階。


新しい職場は、想像以上に静かだった。


廊下には誰もいない。


ドアはすべて閉じている。


案内された部屋は三メートル四方のこじんまりとした個室。


中央に椅子と、ヘッドギア。


壁には何もない。


「ここで、観測を行います」


案内役の職員が言った。


「映像が送られてきます。あなたは、それを見るだけです。何も考える必要はありません。ただ、見てください」


「……それだけですか?」


「それだけです」


職員は微笑んだ。


「あなたは、すでに一度、観測を行いました。適性があります。システムはあなたを選びました」


システム。


その言葉が、妙に引っかかった。


「他にも、こういう人が?」


「はい。」


職員は即答した。


「観測補助員は、全国に三千人以上。主に地下施設で勤務しています」


三千人。


私のような、仕組まれた観測犯が。


「皆、同じように……?」


「いいえ。同じではありません」


職員は首を振った。


「偶然に目撃した人もいます。事故に巻き込まれた人もいます。ただ、全員に共通するのは――適性があった、ということです」


適性。


死を見ることに慣れていること。


精神が崩れないこと。


観測を繰り返せること。


「慣れますよ」


職員は言った。


「最初は戸惑うかもしれませんが、すぐに日常になります。あなたは清掃員でした。もう、死は見慣れているはずです」


あぁそうだった。


私は、死を見慣れていた。


ただ、それが「確定後」だっただけだ。

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