#九

数日後、マルタが姿を消した。


「第三三号はどこだ?」と私は管理官に尋ねた。


「配置転換です」


「どこへ?」


「上位部門です」


それだけだった。


私は観測室に戻り、一人で昼食を取った。


カフェテリアは静かだった。


他の観測補助員たちも、黙々と食事をしている。


誰も会話をしていない。


以前は、こうではなかった気がする。


もっと、何か……活気があったような。


だが確信は持てなかった。


記憶が曖昧だった。


午後、案件を処理していると、また表示された。


――事象番号 3,821,889


発生確率 6.7%


内容:不明


観測要請:保留


また保留だ。


私は詳細を開こうとした。


――権限不足


そして端末が、追加メッセージを表示した。


――注意:本事象はあなたに関連しています


私に?


どういう意味だ?


だが、それ以上の情報は得られなかった。


私は作業を続けた。


翌日、第六二号も姿を消した。


翌々日、第二四号も。


その次の週、第八号が配置転換された。


観測室は、だんだん空席が増えていった。


そして、ある日。


観測室にいるのは、私一人だけになった。

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