#七

目を開けると、観測室だった。


時計を見る。16時48分。


あれから、どれくらい経ったのか?


体は自由に動いた。拘束は解除されている。


端末には、次の案件が表示されている。


――事象番号 3,821,613


発生確率 94.2%


内容:通常業務


観測要請:承認


私は何事もなかったように、ヘッドギアを装着した。


映像を見る。


確定する。


次。


次。


次。


夕方、マルタが声をかけてきた。


「さっき、大丈夫だった?」


「何が?」


「廊下で様子がおかしかったから」


私は首を傾げた。


「廊下?」


「覚えてないの?」マルタは不思議そうに私を見た。


「いや……覚えていない」


それは本当だった。


昼休憩の後、何があったのか。


記憶が曖昧だった。


いや、記憶がないわけではない。


ただ、思い出そうとすると、霧がかかったように曖昧になる。


「まあ、いいわ」


マルタは笑った。


「あなたが元気ならそれで」


業務終了。


私は制服を脱ぎ、私服に着替えた。


ロッカーの鏡に映る自分の顔は、いつもと同じだった。


第六二号が隣で着替えていた。


「お疲れ様」と私は言った。


彼は少し驚いたように私を見て、それから頷いた。


「お疲れ様」


彼の手は、震えていなかった。

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