おれ、勇者だってよ


パッと目が開き、飛び上がる。

見たこともない空間。

真っ暗で、所々に星のような何かが浮かんでいる。

そこだけは綺麗に輝いていた。


 でも、そんなことより

 ここはどこだ!?

「やばい…。

 クソみたいな人生が終わったことしかわかんねえ……」

「あなたは召喚されたのです。勇者よ。」


独り言を阻むなよ。絶対コイツ空気読めない。というか今何て?

 勇者?

 声がした方に向き直る。

 

 そこには、

短めの金髪、そしてウサギのような赤い目と胸に掛けている十字架。さらに真っ青な服。

そして可愛い顔立ち。

 そして、それに似合わぬほど、 

(なんだアイツ。手が、黒い?)

何かの病気ですかってくらい、手が黒かった。

というか、情報過多がすぎる。こわ。


金髪はおれが変なことを考えていることを知らぬまま、言葉を続ける。

「あなたは『魔王』を倒す使命を背負い、召喚されたのです。」


うん、ごめん。全く意味がわからない。

召喚?勇者?魔王?

「こりゃあ、大層変な夢だな。」

「え、いやあの。夢じゃ無いんですけど…」

「いや、夢だ。これは夢。夢なんだよぉ!!」


信じられるか!?おれが勇者だなんて。

そんなの世界終了RTAみたいなもんだぞ?

 世界記録更新できるわ!


それに、コイツは召喚って言ったけど、おれの死因は

 ただの転落死。無理がある、というか認めん!

「認めんぞおおおお!」

「だっ、だから!マジです。」

「……マジで?」

「マジです。」

「ガチマジで?」

「ガチマジです。」


 ……おれが疑惑の眼差しを向けていると、金髪は手をパンッと鳴らした。

「大丈夫です。おそらく勇者様は何らかのメチャ強能力を持っているので…。

 だからっ、」

「今なんて?」

「え、いや。大丈夫です、と…?」

「その後。」

「……あ、メチャ強能力を持っていると言うことですか?」

「そう!そこそこ!金髪ちゃん!」

「ルデアです。」

「ルデアちゃん!」

「ルデアでいいです。」


なんか今、そっけなくなかった?

いや、というか!チートがあるなら先に言えよ!

おれ無双できるじゃん!?ハーレムできちゃうじゃん!?

昔は2次元でしかハーレムできなかったんだよ!嬉しいな!

よし、ルデアを一人目にしよう。


ルデアに熱い視線を送ると、一瞬で目を逸らされた。

 辛い。

「あの、喜んでいるところ言いにくいのですが、おそらくまだ能力は使えないです。」

「はぁ……?」


 このパツキンは何を申しているんだい?

 ちょっとおれにはわからないなぁあああああ!

「あの、レベルが足りなくって、能力はまだ無理かと…」


ダッとルデアに駆け寄る。

そしてルデアの肩を掴んだ。

「え……?」

ルデアは動揺し、目を見開く。

「あ、あの。勇者様…?」

「ルデア、今のおれの気持ち。分かるか?」

「えっ、あ、その。分かんないです…。

 というか、どうでもいいです。」


あれぇ、どうでもいい?この子、大丈夫かな?

 おれは勇者ぞ。

「おれは、上げて落とされて辛いって言いたかったんだけど!?」

「あぁそうですか。災難でしたね。」

「やったのお前だからな?」

 沈黙が部屋の中に流れる。

 あれ、あんまり気まずく無いな。

あっちも気まずそうじゃ無いし。

 もしやこれは運命!?


 あ、待てよ。これはおれが勘違い男になるやつだな。

 くっそ、ここで女性経験0が出たか……!

 よし、もうやめよう。心が辛くなるだけだけ。



「なあ、おれの能力って何なんだ?」

 話を変える発言をする。

 よし!これでルデアはおれがコミュニケーションが得意なんだと思ってくれるはず!

「すみません、分かんないです。」

 おれの話題即終了したんだが。


「ただ、時間が経つと発現します。

 さあ、もういきましょう。魔王を倒すんですから。」


 大事な情報があった気がするが、おれが思ったことは一つ! 

 コイツコミュ力あるなー。いいなー。

 おれも、それくらいコミュ力があれば、人生楽しかったのかなぁ!!?


 そんな意味不明な考えをしながら、ルデアの後ろについていく。


 少し歩くと、ルデアが振り向いた。

「結構長いので、話しながら行きましょう。

 自己紹介でもしましょうか。」

「え、あ、い。いいんじゃないか!」 

 冷静になると、コミュ障に磨きがかかるのは何故だろう!?

 

「……ぼくは、ルデア。ルデア・ガードナーです。

 あの、名前を聞いても?」

「お、おう!おれは、栗原春希 春希って呼んでくれ!」

 勇者様よりは幾分マシだろう。

「………ハルキ、ですか。良い名前ですね。」


 なんかご機嫌だけど何故だろう。

 そんなに良い名前だったのか?あっちではありふれてるんだけどな。

 春希って呼ばれて振り向いたら、自分の目の前にいた人のことだったのはもう黒歴史。


「他に質問とかあります?」

 おれの思考はルデアに粉砕された。まあ黒歴史に悶えるだけだったしいいか。


「じゃあ、魔王って何なんだ?」

 おれがイメージしている魔王は、あの王座に座って。

 《よく来たな勇者よ!》とか

《お前に世界の半分をやろう…!》とか言うやつ。


 古臭い?知らんわ。

「魔王は、この世界の神ですよ。

 ……邪神ですが。」


 ちょっとまって、邪神?

 なるほどな〜。前世で転落死で死んだやつが、今世で邪神を倒すと……

 無理に決まってんだろ。馬鹿か?


「……適正属性だけみましょうか?」

「……ルデア君。」

「はい。」

「そういうことは先に言えよ。」

「完全に忘れてました。」


 コイツ!?開き直った、だと……?

 

「で、適正属性って何なんだ?」

「魔法の属性です。以上。」

「お前説明する気ないよな?」

「わからないのなら、説明しますよ?」

「分かるからいいけど…。」


 何を隠そう、おれはオタクだから。

 そう言う系の知識は全て理解してる。

 魔法とはMPを使って出せる技。

おれのオタク歴舐めんなよ?

 神と崇め讃えてくれ。


 ルデアは近寄るとチョンとおれのおでこに触れた。

「……どうだ?おれの属性。

おれ熱血だから火だろ?それとも王道な光?

それともまさか、闇とか…?」

「……変異してます。あなたの属性。

 気持ち悪い方向に。」

「気持ち悪い方向!?」

「あ、解析が終わりました。

 えーと、あなたの属性は…」


 ルデアの次の言葉を待つ。

 どうしよう。すごいかっこいいやつだったら。

「魔」とか。

 うおおおお!

「……不運ですね。」

「は?」

「ですから、あなたの属性は《不運》です。」


 ナニソレ?

 あ、まさか。

 前世の、せい? 


「あっ、もう着きます。」

 そういってルデアは指をさす。

 確かにドアがあった。

 ドアに手をかけ、開けると

 そこには知らない世界が広がっていた。


 頬を突き抜ける生ぬるい風。紫がかった草。そして、とても大きい太陽。

 それなのに気温は快適という意味がわからないものだった。


「ハルキ。」

 そう言われ、振り返る。

「行きましょうか。」

 ルデアはそう言い、走っていく。

「え、結局おれの属性なんなの?

 《不運》ってなに!?ルデアさん!?」


 おれは察する。

 こりゃダメだ!

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どうせ負け組ですよーだ!! ゆたい @yutaji1103

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