どうせ負け組ですよーだ!!

ゆたい

人生って難しい!!



 登校途中、ぽつんと水が頬に落ちた。


 ん? 雨?

 ゆっくり空を見上げると、さっきまで快晴だった青空は、いつのまにかドス黒い雲に占拠されていた。


 普通のやつなら「やば!雨かよぉ」なんて言いながら焦るだろう。

 だが、おれの余裕はそんなことで揺らがない!!

 なぜかって?


 それはな!

 おれはこんな時のために傘を常備して――


「あれ……? あっれっれー? おっかしいぞー!?

 傘ないんですけどぉ!!?」


 言ってる場合じゃない。

 ポツポツだった雨は、急にバケツをひっくり返したような土砂降りへ変貌した。

 ちょっ、頭に当たる雨、痛っ。


 傘を探すのは諦め、おれは全力疾走で雨宿りへ。

 バス停に滑り込み、濡れた前髪を拭った瞬間、怒りが込み上げてくる。


『今日の天気は、快晴です』


 あのアナウンサーには、絶対一発いれる。

 ついでに、傘で遊んで壊した自分にも一発。


 晴れる気配ゼロの空を見上げて言った。


「みんな、死ねばいい」


 もちろん雨はやまないし、おれの心も晴れなかった。


 今日は……休んでいいか。

 そう思いながら、学校に欠席の連絡を入れた。


 ______________


 帰り道。小雨になった空に向かってつぶやく。


「お前、もう一生晴れてろよ……」


 身勝手? 知ってるよ!?

 でも雨って何!?

 なんで空から水が降ってくるんだよ!? せめてお湯にしろよ!?


 ……いや、お湯は熱いか。

 でもさ、シャワーと一緒じゃん!? いいだろ別に!


 急に冷静になったり熱くなったり。

 きっと周りは思ってる。


《なんだアイツ、キッショ……》

 うわ、死にたい。


 そんな意味不明なテンションのままマンションに到着し、いつも通りエレベーターのボタンを押す。


 ……5分経過。


 ……来ない。


「なんで?」


 辺りを見回すと、やたら派手なポスターたちに囲まれて、場違いな白い紙が貼られていた。

 赤文字。嫌な予感しかしない。


 近づいて読む。


『エレベーター故障中のため、階段をご利用ください』


「……おれの階、知ってるかな?

 14階だよ!! クソがぁぁああ!! フラグ回収はえぇぇ!!」


 冷静になった。

 ……いや、なってみたけど。もっと目立つ場所に貼れやコレ。

 5分間ボーッと突っ立ってたおれが変質者みたいじゃん。

通報されてないよな。


「はぁぁぁぁ……」


そんなことどうでも良く。クソデカため息を吐きながら階段を登る。


そして、10分ほど経っただろうか。

「やっと11階……長っ。マジで長い。

 あー腰痛い……」


 体育2のおれに14階は無理ゲーだった。

 目がショボショボして、意識がふわっと遠のく。


 ふう……目を閉じ――


 ――それが、いけなかった。


 濡れた靴。残り3階という油断。疲労困憊の頭。


「えっ……?」


 視界が回転する。

 体が宙を舞い、階段が遠ざかっていく。


 おれは、階段を踏み外した。


 走馬灯が流れる。


 おねしょした記憶。

 友達を作ろうとしてストーカー扱いされた記憶。

 友達への手紙をシュレッダーにかけた記憶。

 引きこもりかけて親に勘当されそうになった記憶。

 暇でブリッジをしたら腰をやった記憶。


「……ロクなの無いじゃねえかああああ!!

 もっと! もっと引きこもってやればよかったぁぁ!!」


 ドンッ――背中に鈍い衝撃。

 視界が一瞬で暗転する。


 ああ、おれ……死んだんだ。

いや、マジで雨。お前のせいだからな。 

  

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