いいクリスマスの話ではなくいい人生の話、最高に優秀なサンタクロース
- ★★★ Excellent!!!
読後に胸の奥がじんわり温かくなりました。
まず秀逸なのは、語り口の軽さとテーマの重さのバランスです。
冒頭の「クリスマスに良い思い出はない」「刷り込みがヘビー級にキツい」という、少し斜に構えた語りが、読者の肩の力を抜いてくれます。ユーモアも多く、テンポもいい。
それなのに、話が進むにつれて、扱っているものが「子どもの信仰」「大人の責任」「与える側になることの救い」へと、自然に深く沈んでいく。この落差がとても心地いいです。
たかちゃんの描写も素晴らしいですね。
ただ「可愛い子」ではなく、理論派で容赦ない。
8階問題、鍵問題、足跡問題――どれも笑えるのに、「ああ、子どもって本当にこういうところ鋭いよな」とリアルに感じさせます。
この“論理で追い詰めてくる子ども”がいるからこそ、サンタ役の必死さが際立ち、物語が単なる美談にならず、生身の体温を持ちます。
そして、この作品の一番の核は、やはりここでしょう。
あの日。サンタクロースになれて、救われたのは私だと。
この一文に、すべてが収束します。
「誰かのために嘘をついた」「夢を守った」という行為が、実は過去の自分を救っていたという構造が、とても美しい。
子どもの頃にもらえなかった“証”を、大人になって自分の手で作り出す。
これは、優しさであり、再生であり、ある種の自己救済でもあります。
ラストの連鎖も見事です。
11階のベランダで足跡をつける、成長したたかちゃん。
その一行だけで、「時間」「世代」「愛」がすべてつながる。説明過多にならず、写真一枚のLINEで伝えてくるのが、現代的で、とても上手い。
クリスマスは、決して、呪いの儀式ではないのだ。
この言葉は、物語の最初にあった「刷り込み」を、真正面からひっくり返すカウンターになっています。
否定ではなく、上書き。
だからこそ、押しつけがましくなく、読者の心にも自然に染みてくる。
総じてこの作品は、
派手な事件は何も起きないのに、人生の見方が少し変わる話です。
笑えて、ハラハラして、最後に静かに救われる。
「いいクリスマスの話」ではなく、「いい人生の話」だと思います。
とても素敵でした。
間違いなく、最高に優秀なサンタクロースです。