場面5 午前中

(強い日差し)

(廃材を探す二人)


男 とはいえさ、中々いい電線はないな。

  あとで売るために、短く切ったやつと、

  取り外せなくて、放棄されたものばかりだ。


女 こっちの細いのは使えないの?

  いっぱいありますよ。


男 それは単線だから……多分強度が不足してると思う。


女 ロープみたいにより合わせれば強くなりませんか?


男 いや、たしかに……

(少し考える)

  行けるかもしれない。

  この細い線をさ、なるべく多く集めよう。

  より線にすれば丈夫で長いロープになるかもしれない。


(二人で廃材の中から線を集める)

(線を編んでロープにする)


女 仕事って楽しいですか?


男 難しい質問だな。

  まぁ、楽しいっちゃ楽しいし。

  つまらないっちゃつまらない。

  特にうちは零細だからさ、

  元受け無理難題を、安い金額で大量にさばいてるから、

  ホント嫌になるよ。


女 今の仕事は辞めないの?


男 今の仕事は、今までで一番給与が安いんだけどさ。

(皮肉な笑い)

  社長とか、同僚がいい奴ばっかなんだよ。


女 そうなんですね……


男 でもさ、

  俺も今は仕事が生活みたいになってさ。

  昨日、「つまんない」って言ったけど、ホントに空っぽの人生でさ

  きみが来なきゃ、俺が飛び降りてたかもしれない。

(大笑い)


女 そんなこと言わないでください!!


男 冗談だよ


女 こんな時にそんな冗談

  不謹慎です。


男 いや、すまない。

  でもほんと、生きてる意味が分かんないってのは実際あってさ。

  俺も……

  きみみたいに、努力して、しがみつく根性があればと思ってるよ。


(ロープが完成する)

(片方をタンクの骨組みに固定)

(ロープを下におろす)


女 あと2~3m欲しいところですけど……


男 この位なら最後は飛び降りるよ。

  それで、すぐに階段を上がって扉を開けに来るから。


女 わかりました

  ……お願いします


(男がロープを伝って降りる)

(女の不安そうな表情)

(ギシギシいう音)

(大きな音)


(下を見ながら叫ぶ)

女 大丈夫!?

  ねぇ、返事してよ。ねえ!!


(女がスマホを取り出し悩む)

(電源を入れる)

(途端に電話がかかってくる)

(消しても着信が鳴る)

(女が電話に出る)


  ごめんなさい、また後でかけなおします。


(電話を切る)

(すぐに119)


  あ、はい。

  事故です。いえ、救急です。

  住所を言います――


  そうです、そこの廃ホテルです。

  すいません。遊びで入ってケガをしました。

  本当にすいません。すぐ救急車を…

  ありがとうございます。

  はい……ホテルから落ちて、足を怪我しています。

  意識はあるみたいです。命は……別条はなさそうです。


  私は……すいません。説明しにくいんですけど。その廃ホテルの屋上に閉じ込められてる状況です。

  あ、はい、はい。申し訳ございません。

  そうです、私も救助が必要です。

  はい……すいません。

  いえ、本当にすいません。

  お待ちしています。

  よろしくお願いします。


(力が抜ける)


(少しの間)


(下に向かって叫ぶ)


  ねぇ、大丈夫?

  今、救急車呼んだから。待ってて。

  消防車もくるみたい。私も大丈夫だから。


(下に向かって手をふる)


  そう言えば名前聞いてなかったよね。

  あとでさ……


(スマホの音)

(女、崩れ落ち、フェンスに寄りかかる)


――暗転。


(サイレンの音)

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廃墟のふたり ○ににきた女とサボりにきた男 大玉寿 @00ta

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