場面4 早朝

(快晴)

(柔らかい光が屋上を照らす)

(風の音)


(男の大きなあくび)


女 おはようございます


男 おはよう。

  開けない夜はないってな。

  まぁ、沈まぬ太陽もないけどな。


女 ……なんでそんなに元気なんですか。


男 そりゃ寝たからな。

  寝て起きりゃ、

  たいていのことは何とかなってる。


女 何ともなってませんよ……


男 とりあえず。できることを考えると……

  扉を壊すか。

  下に降りるか。

  助けを呼ぶか。

  この三つだと思う。


女 ……はい。


男 そして、扉は壊せない。

  人もほとんど通らない。

  っとなれば、自力で下に降りるしかない。

  どう思う。


(まわりをみわたす)


寂れた観光地、廃ホテルの屋上。

錆びたフェンス。

壊れた屋上タンク。

散乱した廃材。

風の音。


女 あのタンクを、下に落とせば、誰か気付くんじゃないですか。


男 それをするくらいなら、スマホの電源を入れてくれ。


女 廃材で梯子を作るとか、電線をロープにするとか。


男 やっぱりそれだよな……

  まぁ、工具はないから梯子は無理だな。

  電線も、何年も放置されてて劣化しているかもしれない。


女 電線って銅ですよね。丈夫なんじゃないんですか。


男 丈夫だけど、切れることはある。

  特に、屋外放置のやつは。


(少し考える二人)


女 なら、

  私が下りるべきですね。


男 何でそうなるんだよ。


女 何でって、

  私の方が軽いんだから当たり前です。

  それに、ジムにも行ってるし、ボルタリングも経験してます。


男 いや、

  でも危ないし……


女 危ないのは同じです。

  そして、私の方が危なくない。

  分かりますよね。


男 落ちる可能性だってある。

  俺の方が頑丈だ。


女 落ちた時を考えるならなおのことです。

  私の方が身軽だし、柔軟性もあります。


男 でも、危険な仕事は男がするべきというか……


女 何それ、

  さすがに昭和過ぎないですか。

  それに、責任もあります。

  ドアを壊したのは私。

  スマホがあるのに使わないのも私。

  全部、私に責任があります。


男 この期に及んで責任って……

(少し間を置く)

  そうだ、スマホだ。

  落ちた時、本当に最悪な時に連絡する必要がある。

  きみのスマホだ。

  俺が落ちたらさ。

  まぁ、死にはしないから救急車呼んでくれよ。


女 それで納得すると思うんですか。


男 なら、今スマホの電源入れなよ。

  それができないなら、降りるのは男の役目だ。


――暗転。

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