場面2 日没

女 ……どうしよう……

(フェンスのそばにへたり込む)

(スマホをいじる)


男 悪いんだけどさ。

  助けを呼んでくれないかな。

  残念ながら俺のスマホ、下の車なんだ。

(下を指す)


女 ……できません。


男 なんでだよ。

  閉じ込められてんだぞ。


女 ……それより、扉を開けられませんか?


男 無理だよ。

(扉を確認する)

  歪んでるし、外開きだ。


女 ……。


男 親や友達は?

  警察でも消防でも——


女 ……ごめんなさい。

  ……知られたら、終わりなんです。


男 大げさだろ。

  ただの笑い話だ。


女 笑い話でもダメなんです。

  とにかく終わりなんです。

(身だしなみを整え始める)


男 仕事か……。

  辞めりゃいいじゃねぇか。

(面倒臭そうに、頭をぼりぼりかく)


女 辞めたら、次はないんです。

  それくらいなら……


男 ……死ぬのか。


(少し間)


女 ……ダメなんです。

  それしか方法がないんです。

(沈黙)


男 なあ。

(腰を下ろして休む)

  仕事ってさ。

  所詮、仕事だぞ。


女 ……。

(落ち着きのない素振り)


男 サボってる俺が言うのもなんだけどさ。

  人生全部かけるもんじゃねぇ。


女 それは、貴方の仕事が「そういう仕事」だからです。

  失敗しても「まあ、しょうがない」で済む。

  私が失敗したら、代わりはいません。

  責任も、迷惑も、全部——

  貴方とは違うんです!!

(スマホを常に気にする)


(沈黙)

(風の音)

(空が少しずつ暗くなる)


男 いやまぁ、そうかも知れないけどさ……

  ……初対面の相手に、そんなこと言うか?普通よ。

(小声で)


女 それより。

  下の人に助けは呼べないでしょうか。

(急に声のトーンが上がる)


男 下は幹線道路だ。

  車は通っても、人はいない。

  誰も気付かないよ。


女 やってみなきゃ、分かりません。

(下に向かって)

  おーーい、すーいーまーせーーーん

  誰かいませんかーーーー

(廃材から木材を取る)

  これを投げたら——


男 待て。

  当たったらどうする。

(立ち上がって女を制止する)


女 当てません。

  手前に落とすだけです。


男 ……こんな暗いのに。

  危ないだろ。


女 ……。

(木材を足元に落とす)


男 俺だって、明日は仕事なんだ。

(大きくため息)

  サボってたけどさ、

  朝から居なくていい仕事じゃない。


女 ……ごめんなさい。

(常にスマホを気にする)


(男が暗闇でスマホが切れていることに気付く)

男 ……電源が……

  まぁ、そういう事か……

(深いため息)


女 ……。

(しゃがみ込む)


男 ……わかった。

  でも、脱出するにしても、

  誰かに気づいてもらうにしても。

(少し間)

  明るくなってからだ。

  明るくなれば、いい考えも浮かぶさ。


――暗転。

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