第8章 「すれ違う心」

文化祭と体育祭を終え、学校はいつも通りの日常を取り戻していた。

咲(蓮の身体)は、ふとした瞬間に今日の出来事を思い出す。文化祭で手が触れたこと、体育祭で目が合った瞬間の胸の高鳴り――それらは鮮明に心に残っていた。


だが、日常が戻ると、入れ替わりの影響で小さな誤解やすれ違いが生まれる。

「桜井、今日の授業、なんか変じゃなかったか?」

蓮(咲)の声に、咲(蓮)は慌てて首を振る。

「ううん、別に変じゃなかったよ!」

けれど、蓮(咲)は微妙な表情を隠せない。咲(蓮)のいつもとは違う動作や反応に、少し戸惑っていたのだ。


放課後、教室で片付けをしていた二人。窓際に座ると、沈黙が流れる。

「……あのさ、桜井」

「ん?」

「最近、なんか距離ができた気がする」

蓮(咲)の言葉に、咲(蓮)は胸が締め付けられる。


「ご、ごめん…私、別にそういうつもりじゃないんだ…!」

慌てて言葉を返す咲(蓮)。しかし、言葉のトーンや仕草の微妙な違いから、蓮(咲)は誤解してしまう。


その日の帰り道、二人は少し離れて歩くことになった。秋風が頬を撫で、静かな夕焼けが校庭を染める。

咲(蓮)は心の中で葛藤する。

(私、蓮のこと、本当に好きなのに…! なのに、うまく伝えられない…)


一方の蓮(咲)も同じく、心の奥で複雑な感情を抱えていた。

(桜井が俺に気を遣ってるだけかもしれない…いや、でも…)


その夜、咲はベッドで鏡を見つめ、深いため息をつく。

(私たち、ちゃんと素直になれたらいいのに…)


入れ替わりによる非日常は続くけれど、心のすれ違いや小さな誤解を通して、二人は互いの気持ちに気づき始めている――。

胸の奥で芽生えた恋心は、まだ言葉にはならないけれど、確かに存在していた。

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