第9章 「秘密と距離」

入れ替わり生活も一週間が過ぎ、咲(蓮の身体)と蓮(咲の身体)は少しずつお互いの生活に慣れてきていた。しかし、互いの秘密や弱さに触れることは、まだ緊張を伴った。


ある放課後、二人は教室で片付けをしていた。

「……桜井、ちょっと相談があるんだ」

蓮(咲)が低く声をかける。咲(蓮)は振り返り、目を見開いた。


「うん、何?」

「……実は、俺、この前の文化祭の時、少し困ったことがあって…」

蓮(咲)は小さな声で打ち明ける。普段はクールで完璧な彼が、弱さを見せる瞬間――咲(蓮)は心の奥で胸が熱くなるのを感じた。


「そっか…私も、最近ちょっと大変だったんだ」

咲(蓮)は自分の小さな悩みを、勇気を出して話す。すると、蓮(咲)は真剣に耳を傾け、静かにうなずいた。


その瞬間、二人の間には言葉にならない信頼感が生まれる。互いの秘密を共有したことで、距離が一気に縮まったのだ。


「……ねえ、桜井」

「ん?」

「実は、ちょっと前から思ってたんだけど…」

蓮(咲)が咲(蓮)の手をそっと握る。自然な手の温もりに、咲(蓮)は息を呑んだ。


「……え?」

「桜井といると、なんか安心するんだ。笑顔を見ると、自然とこっちも笑っちゃう」

蓮(咲)の瞳は真剣で、少し照れくさそうに揺れている。


咲(蓮)は頬を赤くし、言葉に詰まったが、胸の奥の高鳴りは隠せなかった。

(……私も、同じ気持ち…!)


その日、二人は放課後の教室でしばらく話し込み、笑い合い、互いの秘密や思いを少しずつ打ち明けた。

入れ替わりの非日常が、二人を自然に結びつけ、胸キュンな瞬間を増やしていた。


夕暮れの窓際で、二人は手をつないだまま沈黙する。言葉はなくても、心の距離は確実に近づいていた。

入れ替わりという奇妙な日常は、二人の心を優しく揺らし、恋心を確かに育んでいった――。

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