第7章 「体育祭とすれ違う心」

秋の澄んだ空の下、校庭には生徒たちの歓声が響き渡っていた。今日は体育祭。普段とは違うスポーツウェア姿のクラスメイトたちを見ながら、咲(蓮の身体)は内心で少し緊張していた。


「桜井、走る順番、こっちだぞ」

「う、うん…」

蓮(咲)の声が心地よく響き、咲(蓮)は胸の奥が高鳴るのを感じる。普段とは違う身体での運動は、思った以上に疲れるが、心の奥で少しワクワクしていた。


競技が始まると、二人はそれぞれの身体で奮闘する。

咲(蓮)は、普段の自分より筋力もスタミナもある蓮の身体に驚きながら、リレーで仲間をサポート。

「よし、行け!」

バトンを受け取る瞬間、隣の蓮(咲)が笑顔で声をかける。二人の目が合った瞬間、胸が熱くなる。


しかし、入れ替わりのギャップは思わぬハプニングも生む。

走る途中で咲(蓮)は、普段の蓮なら軽々と跳ぶはずの障害物で少し躓きそうになる。

「大丈夫か?」

隣で蓮(咲)が手を差し伸べ、軽く支えてくれる。二人の距離が自然に縮まった瞬間だった。


昼休み、教室に戻ると、クラスメイトが二人の様子を微笑ましそうに見つめる。

「なんか、二人仲良くなったな」

水野美咲の言葉に、咲(蓮)は思わず頬を赤らめる。蓮(咲)も目を逸らしつつ、心の中で微笑む。


午後の種目は二人ペアの障害物競争。互いの身体の特性を理解していないと上手くいかない競技だ。

「桜井、右手を…そう、もう少し速く!」

咲(蓮)の声に合わせ、蓮(咲)は息を合わせて動く。息がぴったり合う瞬間、自然と手が触れ合い、心臓が跳ねる。


競技が終わった後、二人は校庭の端で息を整えながら座った。夕日に染まる二人の影が、ひとつに重なる。

「……桜井、今日、一緒にいて楽しかった」

「私も…楽しかった」

小さな声で交わす言葉だけで、心の距離がさらに縮まる。


帰り道、咲(蓮)は胸の奥で芽生えた感情を自覚する。

(私…蓮のこと、ちゃんと好きになってる)

蓮(咲)も同じ思いを抱いていた。入れ替わりという非日常を通じて、互いの弱さや優しさを知り、心の距離が自然と近づいたのだ。


「……これからも、二人で頑張れるかな」

「もちろんさ」

互いに見つめ合う二人の目には、信頼と少しの恋心が宿っていた。入れ替わりのドタバタはまだ続くけれど、二人の絆は確かに深まっていた――。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る