第5章 「文化祭、心の距離」
文化祭まであと一週間。教室は準備の熱気で満ちていた。模擬店の装飾、出し物の練習、買い出しリストの確認――二人は自然と一緒に行動することが多くなった。
「桜井、ここはもう少し派手にしたほうが目立つと思う」
「うん…そうだね!」
咲(蓮)は微笑みながら、指示に従い装飾を整える。手が触れ合うたびに、心臓が小さく跳ねる。蓮(咲)もまた、咲の細やかな気遣いに驚きつつ、胸の奥が温かくなるのを感じていた。
昼休み、二人は教室の隅で、文化祭の準備で使う小物を整理していた。
「ねえ、桜井、ちょっと手伝ってくれる?」
「う、うん…」
手を伸ばす蓮(咲)と、それに応える咲(蓮)。偶然、指先が触れ合い、二人は目を合わせた。
「……ドキッとした」
蓮(咲)が小さな声でつぶやく。咲(蓮)は頬を赤くしながら、視線を逸らす。
(……私も、ドキッとした)
放課後、教室の掃除を終えた二人は、ふと窓際に座って休憩することになった。夕焼けに染まる校庭を見ながら、無言で並ぶ時間。言葉はなくとも、互いの存在が心地よく感じられる。
「……ねえ、蓮」
「ん?」
「私…なんだか、蓮と一緒にいると、安心するんだ」
咲(蓮)は少し震える声で告げる。蓮(咲)はその言葉を聞き、胸の奥がぎゅっと締め付けられる感覚を覚えた。
「……俺もだ」
「え?」
「俺も桜井と一緒にいると、なんか落ち着く」
蓮(咲)は素直に答え、少し微笑む。その笑顔に、咲(蓮)は心を持っていかれそうになる。
その夜、家に帰った咲は、蓮の身体で見る鏡の中の自分を見つめる。
(私、蓮のこと、好きかもしれない…)
普段なら隠してしまう感情が、入れ替わりという非日常の中で、少しずつ溢れ出していた。
翌日、二人は文化祭のリハーサルで再びペアになった。手が触れたり、近くで笑い合ったりする度に、胸の奥が甘く締め付けられる。周囲の友達には気づかれない、二人だけの秘密の距離。
「……ああ、これが、恋なのかな」
咲(蓮)は心の中でそっとつぶやく。
蓮(咲)もまた、同じ思いを胸に抱いていた――入れ替わったことで、互いの心を覗き見たからこそ、芽生えた感情だった。
文化祭当日、二人の胸は期待と不安でいっぱいだ。
入れ替わりという非日常が、二人の心を少しずつ近づけ、まだ言葉にできない恋心を育てていた。
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