第4章 「すれ違いと小さなハプニング」
入れ替わってから数日が経ち、咲(蓮の身体)はだんだんと蓮の生活リズムに慣れてきた。
だが、慣れたとはいえ、毎朝の登校や授業中の発言には緊張がつきまとう。少しでも普段と違うと、クラスメイトの視線が刺さるのだ。
「蓮、今日もいつもより優しいね」
女子のささやきに、咲は思わず心臓が跳ねた。
(やっぱり見られてる…!)
頬が熱くなるのを感じながら、咲は慌てて笑顔を作った。
一方、蓮(咲の身体)は、咲の友達関係や習慣に戸惑う毎日。授業中、咲のノートを覗き込むだけでも、細かい気遣いが必要で、普段の自分の楽さとの違いに息をつく。
そんな中、文化祭の準備は佳境を迎えていた。教室の装飾を仕上げるため、二人は長時間一緒に作業することに。
「ねえ、桜井、ここちょっと手伝ってくれない?」
「う、うん…!」
咲(蓮)は少し照れながらも、蓮(咲)の指示に従って装飾を整える。指先が触れ合う瞬間、胸がドキリと跳ねる。
しかし、その最中、思わぬトラブルが起きる。クラスの装飾用の脚立が揺れ、咲(蓮)が後ろに倒れそうになった瞬間、蓮(咲)が咄嗟に手を伸ばして支える。
「だ、大丈夫か?」
「う、うん…ありがとう…!」
目が合った二人の間に、言葉にできない温かい感情が流れる。お互いの心拍が高まるのを、二人とも感じた。
放課後、教室で片付けを終えた二人は、少し離れた窓際に座った。夕焼けが二人の顔をオレンジ色に染める。
「……桜井、今日、意外と頼りになるな」
「そ、そう…?」咲(蓮)は頬を赤くしながら、少しだけ笑った。
その日の帰り道、二人は黙って歩いていたが、互いの存在が自然と心地よく感じられた。入れ替わりによる戸惑いもあるけれど、少しずつ、相手のことを理解し始めている。
「……あのさ、蓮」
「ん?」
「なんか…私たち、変な関係になっちゃったけど…でも、ちょっと楽しいかも」
咲(蓮)は小さな声でつぶやいた。蓮(咲)は微笑み、少し間を置いて答える。
「……俺も、同じこと思ってた」
その言葉に、咲の胸はきゅんと締め付けられた。まだ言葉にできない感情が、二人の間にそっと芽生え始めていた。
小さなハプニングと日常のすれ違いの中で、互いの距離は確実に縮まっている――。
そして、文化祭当日に向けて、二人の心は少しずつ準備されていくのだった。
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