第11話 試練
ガイザックは、私の言葉を信じると言ってくれた。
これで、冒険者登録も認めてもらえるはず。
そう思っていると、ガイザックは笑顔を見せて言った。
「では、貴女にはDランクの冒険者になって頂くので、認定試験を行いましょう」
「え……?」
いきなりDランク?
正気ですか?
冒険者のランクはF〜Sまである。
通常、冒険者登録をしたばかりの者はFランクからと規定で決まっている。昇格するには認定試験を受ける必要があり、試験の受講にはある程度の実績が必要。
そして、Dランク以上の昇格試験には筆記と実技がある。
ガイザックは認定試験と言った。
という事は――
「――もしかして、試験を受ける必要があるのですか?」
「当然です。Dランクになるには試験が必要ですので、筆記と実技の試験があります」
ガイザックは、自分が何を言っているのか分かっているのだろうか。冒険者になってすらいない私がDランクの試験を合格出来るとは思えない。
冒険者登録を認めるとは言ったが登録には試験が必要――これでは登録をさせないと言っていると同義だ。
「ちょ、ちょっと待ってください。登録したばかりの人は最初Fランクからで試験も無いですよね?」
「確かにそうです。ですが、教団の方を冒険者登録するのに最初からFランクというのも外聞が悪いですし、教団から要らぬチャチャを入れられるやもしれません」
「そのような事は――」
「ではミア殿、もしも教団が聖騎士団を連れて来た時、当ギルドを守れるのですかな?」
「………………」
私は、出来ると言えなかった。
聖騎士団は、神に仇なす者と認定したものへ神に代わって罰を与える組織。そして、教団へ害をもたらすものも同じく罰を与える。
私は、聖騎士団がギルドへ来るなんて事は無いと信じている、が、絶対ではない。
そんな時に対抗できるほど私は実力も権力も持っていない。
ガイザックは、私がギルドを本当に守れるのか試そうとしている。だからこそ厳しい目で見ている。
これを私は拒否する事は出来ない。拒否をすれば、私の今までの発言は全て虚言、ただの戯言になってしまう。
ならばこの試験――いや試練と言っていいだろう。甘んじて受ける他無い。
「……分かりました。認定試験お受けさせて頂きます」
「ご理解いただけたようで何よりです」
ガイザックは再び笑みを浮かべる。
その笑顔は安堵か喜びのものか、はたまた
だが、本気であるのは間違いないだろう。
「……それで、試験はいつ?」
「色々と準備もあるでしょうから、いきなり試験というのも難しいでしょう。一週間後に行いましょう。試験はまず筆記から、そして実技はワシが試験官を務めさせて頂きますので」
「わかりました」
試験は一週間後。
それまでに勉強と魔法の修行をしなければ!
◇ ◇
私は話を終えてギルドマスターの部屋を出ると、大広間のある一階へと降りた。
大広間では冒険者達が談笑している。
そして、私の姿を見ると冒険者達は揃って私の方を見てきた。ニヤニヤとニヤケ顔を晒す者、横目にクスクスと嘲笑う者、ヒソヒソと話す者。残念だったなぁと野次も聞こえてくる。
この反応は予想していた。さっきも同じような反応をしてたのだから当然だ。きっと清々しているんだろう。
この
私は一週間後に備えて、対策を考えなければならない。
どうしようかと私はその場で立ち尽くすように色々と思案する。
すると、突然肩にドスッと重みを感じた。
驚いて首を横に向けると、知らない男が私の肩に腕を回していた。
男はカラフルなローブを身に纏い、耳に派手なピアスを引っ提げてニヤニヤしながら私の顔を覗き込んでいる。
この人も冒険者なんだろうが、何だかチャラチャラした男だ。
「……何でしょうか?」
「ギルドマスターと良い話はできたかい?」
チャラチャラした男は、どうせ門前払いだったんだろうとばかしのニヤケ顔を晒している。
何だか癪なので堂々と言ってやろう。
「ガイザック様は、私をDランク冒険者として認定されるおつもりのようです」
「っ!」
チャラチャラした男は明らかに驚いた顔をした。そして周りの冒険者達も私の言葉が聞こえたのか、ざわつき始めた。
私はその反応を見て、少しスッとした。これから皆の私を見る目を変えてみせようと思う。
チャラチャラした男の顔も、驚きから少し動揺しているような表情に変わっている。
「へ、へぇ、凄いじゃん。じゃあ今日から君も冒険者なんだ」
私はまだ、そうですと言えないのがもどかしい。
「いえ、まだ認定試験が終わっていませんので、現時点では冒険者では有りません」
「……ふぅ~ん」
チャラチャラした男の顔に、余裕が戻ってきたのが見える。
現金な人だ。
何だか視線も嫌な感じがするし、今度は身体もベタベタ触ってきだした。
早いこと離れよう。
「もういいで――」
「じゃあさ――」
そこでチャラチャラした男は私の言葉を遮り、突然私を抱き寄せてきた。
「ち、ちょっ!」
突然のことに私は困惑していると、チャラチャラした男は顔を私の顔に思いっきり近づけてきた。
「俺が試験を手伝ってあげようか」
その言葉が、ただの親切心ではないのは私でも分かった。
完全に
この男は色々な意味で危険だ。
早く離れなければ!
「い、いえ――」
「大丈夫、俺が手取り足取り色々と教えてあげるから」
「結構です!」
私は早くこの男から逃れようと、抱き寄せられている腕を振りほどこうとした。だが想像以上にチャラチャラした男の力が強い。いくらやってもその腕を振りほどけない。
そんな私の抵抗にチャラチャラした男は何やら確信したのか、そのまま玄関に向かって私を抱き寄せたまま歩きだした。
「警戒しなくても大丈夫だって。俺は優しいからね。君が心配なんだよ」
絶対嘘だ!
完全に私をお持ち帰りする気だ!
このままでは――ヤバい!
私は誰か助けてくれないかと周りを見渡し、助けの視線を送る。
だが――周りの冒険者たちは、こちらを見てニヤニヤと笑っている。しかも、ヒューヒュー、お熱いね~と野次を飛ばされる始末。
終わった。
完全に終わった。
私はこのチャラチャラした男に、想像もできないような事をされてしまう。
何も抵抗できずに……。
自分の顔から、表情が消えていくのが手に取るように分かる。
絶望を通り越して、何の感情も浮かんでこない。
これから私は、この男に
テオの言っていた通りだった。
冒険者ってのは本当にロクでも無い奴ばかりだ。
私って馬鹿だな……変な夢ばかり見て……。
「おい!!!」
突然男性の大声が鳴り響く。
そしてチャラチャラした男の動きが止まった。
いや、正確には止められた――チャラチャラした男の首根っこを掴む手によって。
私はその感情の無い目で、手の持ち主を視線で追う。
そこには――眉間にシワを寄せてチャラチャラした男を睨みつける……テオの姿があった。
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