第8話 冒険者ギルド
――シュライン冒険者ギルド。
シュラインの街にあるこの冒険者ギルドは、シュラインの街のあるホールス地域を管轄する冒険者ギルド。このギルドは、シュラインの街だけでなく地域の冒険者がそろって利用する大きなギルドだ――
私は、アルシア、テオと共に建物の中へと入る。
中へ入ると、そこは大広間になっていた。
テーブルや椅子が立ち並び、そこで冒険者達がワイワイガヤガヤと談笑し、壁には依頼書とおぼしき張り紙が多数貼られた掲示板があり冒険者達がどの依頼を受けようかと吟味している。
そして中央奥には横へ長いテーブルカウンターがあり、複数の受付が並んでいる。
これが冒険者ギルド……!
私は、夢にまで見た冒険者ギルドへやって来たんだと胸を躍らせる。
そこでテオが受付カウンターの右端を指さした。
指差された所には、手続き窓口の札が掲げられている。
「冒険者登録はあそこの受付だ」
「あっ、はい! ありがとうございます!」
「そんじゃ俺達は依頼完了報告に行くからな。頑張れよ」
「はい! お二人共ありがとうございました!」
私がそう言って二人に頭を下げると、アルシアが「それじゃあね」と微笑んだ。
「あっ、はい……」
その笑顔は反則ですよ。
その女神のような微笑みに、私は思わずドキッとしてしまった。
そして私がアルシアに見惚れている間に、アルシアはテオと共にカウンター左の受付へ向かっていった。
綺麗な人だったな……。
とても綺麗だし光の加護を受けてるし本当に女神のような人だった。
こんな人もこの世には居るんだなと思う。
――さて、いつまでも見惚れている場合じゃない。
早く冒険者登録をしよう。
私は、テオに教えてもらった受付へと歩を進める。
すると、やたらと視線を感じる。気になって周り見てみると、周りの冒険者達がジッと私を見ている。好奇な目で見ている人、訝しげな目で見ている人、見下しているような目の人、やらしい目で見ている人……。
良くも悪くもとても注目されている。教団の人が来る事が無いからだろう。とても場違いな感じがする。
けど臆していてはダメ。
これも乗り越えなければいけない事の一つ。
私は周りの刺さるような視線を耐えながら、そのまま受付へと進む。
そして受付カウンターの前へと立つ。
……が誰も居ない。
正確にはスタッフの人は居る。他の受付で冒険者の相手をしている人や、カウンターの奥で事務作業をしている人、掲示板の張り紙を整理している人、二階へと走っていく人……。
みんな私の存在に気付いている筈だ。私の方をみんなチラチラ見ている。けど、私の所へ近寄りもしない。
明らかに避けられている。誰も相手にしたくないよう。早く帰れみたいな雰囲気を醸し出している。
けれどここで帰るわけにはいかない。
私は冒険者になりに来たのだ。
このままじっと待っていても誰も来なさそうなので、私は意を決してスタッフの人達へ声を掛ける。
「……すいませーん」
流石に大声では叫べなかった。
とても自信無さ気なひ弱な声を出してしまった。
けれどこれで来てくれる筈。
そう思ったが、スタッフの人は誰も来ない。
皆聞こえていないふりをしているのか、誰も動かない。
仕方がない、もう一度。
「すいませーん!」
今度は大きな声で呼び掛けた。
が、またしても無反応。
スタッフの人達は誰も動かない。
周りの冒険者達からクスクスと笑う声が聞こえる。
そしてそれに混じって、何しに来たんだ、バカじゃねぇの、早く帰れよ、と陰口が漏れ聞こえてくる。
やっぱりテオの話は本当だ。
私は歓迎されていない。
誰も相手をしてくれない。
視線、笑い声、嘲り、全てが突き刺さる。
顔からだんだんと血の気が引いてくる。
何も言えない、言葉が出ない、だけど言わなきゃ、何も出来ない、どうしよう。
頭の中に白いモヤがかかっていく。
足が震える、手が震える、肩まで震えが来る。
「おい!!!」
――大きな声がギルド内を駆け巡った。
その
声は左の方から聞こえた。
ギルド内の全ての注目が、声の持ち主へと集中する。
私は声が聞こえた方向、左の方を見る。
すると、左端の窓口にテオとアルシアが居るのが見える。
もしかして……テオさん?
「あっちの窓口に来てんぞ!」
テオが大きな声でスタッフの人に叫んでいる。
テオと目が合った。
すると、フッと笑顔を見せた。
その横でアルシアが呆れたようにテオをジトッと見ている。
「……うるさい」
「良いだろ別にこれくらい」
「ホントにアンタは女ときたらお節介焼くわね」
「はぁ? オメーにしかしてねぇよ」
「……何それ口説いてんの?」
「してねぇわ!」
「ゴメンね、そういうの無理だから」
「だから違ぇって言ってんだろ!」
「ストーカーは皆そう言うのよね」
「まだその話してんのか!」
テオとアルシアが、またギャイギャイ言い始めた。
周りの冒険者達は、またやり始めたとばかしに今度は二人を笑い始める。
助けてくれたんだ。
ありがとうございます。
お陰で身体が一気に楽になった――
「――失礼」
突然後ろから話し掛けられた。
私は驚いて後ろを振り返る。
すると、そこには立派なあご髭を蓄えた中年の男性が立っていた。
男性のガタイは良く、背は百八十センチを超える程高く、その表情は硬い。威圧感も感じる。
「お初にお目にかかります。ワシは当ギルドのギルドマスターを務めております、ガイザックと申します」
この人がギルドマスター!
まさかギルドマスターなんて大物が、私に声をかけてくるとは。
思いもよらない大物に、私は慌てて頭を下げる。
「初めまして。ルクナ教団で伝道師の役を賜っておりますミア・マラコイデスと申します」
「おお、伝道師様でしたか」
私の挨拶にガイザックは笑顔を見せた。
そして、続けて言った。
「……して、当ギルドにどの様な御要件で?」
ガイザックは他の人と違い、私に対してとても丁寧な対応だ。
けれど私を見つめるその視線は、とても鋭かった。
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