第7話 シュラインの街

 修道院を出て三日。

 ようやく私達はシュラインの街へと辿り着いた。


 シュラインの街は平原の真ん中に存在し、街道が街の中を貫いていて物流の要所ともなっている。街は大きな防壁で囲まれ、出入りは東西にある大きな門から行う。

 そして門では検問が行われており、出入りする人を厳しくチェックしている。


 私達は街へと入る為に検問の列へと並ぶ。

 そして私達の順番になると、私達は衛兵の前へと並び立つ。

 

 衛兵はとても険しい表情でコチラを睨みつけ、威圧感を放っている。怪しい者は絶対に入れないという断固たる意志を感じる。

 その威圧感に私は圧倒され恐怖を感じるけど、衛兵からしたら当然の態度でもある。

 何とか耐えて乗り切らなければ……!

 

「次! 身分証を出せ!」

 衛兵はそう怒鳴るように叫び、まずはアルシアへ身分証の提示を求める。そしてアルシアは平然と衛兵に冒険者ギルドの会員証を提示、次に手荷物検査を受ける。

 そしてアルシアの検査は問題なく終わると、衛兵は「通って良し! 次!」と怒鳴るように言い、アルシアは一足先に門の向こう側へ向かう。


 次にテオの番。

 こちらも先ほどと同じように冒険者ギルドの会員証を提示し、手荷物検査。

 そして問題なく終了し、門の向こう側へ。


 やっぱり二人は慣れているからか、衛兵の激しい剣幕を意に介す事もなく淡々と済ました。

 

 次は私の番だ。

 緊張する……怖い……。

 

「次!」

「は、はいぃ!」


 私は衛兵の恐ろしい険相に怯えながら、首から下げている天玲の鎖を外す。

 怖すぎて天玲の鎖を持つ手が震える。

 今にも泣き出しそう。

 けれど勇気を出して、私はその震える手で衛兵にそっと差し出す。

 

 これには私の名前と教団の所属、そして伝道師の役目が記されていて、私がルクナ教団員であるという身分を証明するものだ。


 衛兵は渡された天玲の鎖をジッと見ると、次に私へと視線を移す。


 な、何ですか?

 めちゃくちゃ怖いんですけど……。

 

 すると衛兵は突き返すように天玲の鎖を私へと差し出してきた。

 

「通って良し! 次!」

「……え?」


 私は一瞬何が起きたか分からなかった。

 通って良いって言った?

 手荷物検査は?


 私は言っている意味が理解できずキョトンとする。

 すると、衛兵はコチラをギロリと睨みつけてきた。

「通って良し!!!」

「は、はいぃぃぃぃ!」

 衛兵の怒号に震え上がった私は、逃げるように門の先へと走りだした。


 怖い、怖すぎる……!


 私は、瞳に涙を浮かべなら一足先に向かった二人へ向かって全力で走る。そして門を走り抜けた先に二人の姿が見えると、テオの笑い声が聞こえてきた。

 二人をよく見るとアルシアがニマニマとした表情を浮かべ、テオはお腹を抱えてメチャクチャ爆笑している。


 人が怖がっているというのに、それを笑うなんて何て人達!

 

「ちょっと! なに笑ってるんですか! めちゃくちゃ怖かったんですよ!」

 私はそう涙ながらに訴える。するとテオが思いっきり吹き出した。

「いや、だってよ! ガッハッハッ――腹痛ぇ! ――ッ――ハッハッハッハッ!」

「笑いすぎです!」

「ハッハッハ! ――おめぇビビり過ぎだろ! 通って良いって言われても固まってたしよ!」

「いやだってそれは、手荷物検査も有ると思ってたので、それ無しに通って良いって言われてビックリして……」

「カッカッカ! まあオメェは知らねえわな。教団員は検査緩ぃなんてな」

「えぇ!? 何で教えてくれないんですか!」

「そりゃ面白そうだったからな。最高のリアクションだったぜ」

「もぉ~!」

「ま、あの衛兵も内心気が気じゃなかっただろうな。この街も教団の息が掛かってるんだ。教団員にイチャモンつけたとなっちゃ首が飛びかねねぇ」

「そうなんですか?」

「ああ。オメェが首から下げてる天玲の鎖それは、オメェが思っている以上にヤベェ代物なんだぜ――」


――私はテオの言葉で、ルクナ教団がどういった存在なのか、その片鱗に触れた気がした。

 

 やはりルクナ教団は恐れられている。

 私も教団が凄い力を持っているというのは知っている。ただ、それは皆が畏敬の念を持っているからであって、決して恐怖から来るものではないと思っている。

 けど皆の反応を見ていると、それは少し違うような気がする。まずは冒険者ギルドへ行ってみよう。そうすれば、きっとわかる筈だ――。



 私達は検問を終えると、その足でこのシュライン冒険者ギルドへと向かう。


 シュラインの街は思っていた以上に広い。

 街の中を街道が貫いているので道は広いし、道を挟んで商店などが立ち並んでいて、人も多くて繁昌している。ギルドへ向かう道中も武具や防具、魔道具などの色んなお店がある。冒険者の姿もチラホラ見える。


 ギルドへ向かう道を歩いていると、冒険者とすれ違う。冒険者達は私を見ると、皆すぐに視線を逸らし私達から離れていく。アルシアもテオも、仕方がないなという感じで諦め顔だ。やはり良くは思われていない。

 私の胸の中に、モヤモヤが生まれるのを感じる。


 しばらく歩き進めると、大きな木造の建物が見えてきた。外観は造りこそ木造だが三階建てで横に広い。

 近づくと、大きな正面玄関の上に『シュライン冒険者ギルド』と書かれた看板が見える。

 

 私は初めて見る冒険者ギルドの建物を見ると、それまでの胸の内のモヤモヤは吹き飛んだ。

 私の顔に、心躍る気持ちが溢れ出る。

 

「これが……冒険者ギルド!」

 

 私の無邪気な顔を見たテオは、少し誇らしげにフフンと笑う。

 

「ああ。ここが俺達冒険者が拠点とするシュライン冒険者ギルドだ!」

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