第4話 疑問
ブラッドウルフを倒した少女は、私に目もくれず薬草を採取し続けている。
……もしかして私に気付いていない?
そんな訳はない。魔法まで使ったのに気付かない訳がない。あからさまに無視されている。
何故無視なんかするの?
もしかして魔法を外したから?
確かに初めての実戦で上手く魔法を当てられなかったけれど、そんなに気にくわない?
私は何だか少女の態度に腹が立ってきた。
けれど落ち着きなさい私。この程度の事で腹を立てては神に仕える者として失格。初対面なのですし、ここは冷静に話しかけましょう。
「あの……すいません」
「………………」
声をかけるも無反応。
そこまで話をしたくないの!?
「すいません……大丈夫ですか?」
私は自分の引きつる顔を抑え、何とか笑顔を作って少女へ笑いかける。
「………………」
それでも無反応。
ここまでくると意地です。意地でも反応させてやりますよ!
「あの〜……すいませ〜ん……おーい…………」
「………………」
一切無視。ガン無視。
少女からは、構うな放っておけオーラがビンビンに放たれている。
けれど私も意地になっている。こうなったら大声で思いっきり言ってやる。
「すいませーん!」
私は大声で少女へ声を飛ばす。すると少女は薬草を採取する手をピタリと止めた。
「………………何?」
少女はコチラを向くでもなく、そのまま手を止めた状態で反応してきた。
ようやくリアクションが返ってきた。これで会話ができる!
「あの……大丈夫ですか?」
「……見て分からない?」
「え…………」
「……………………」
会話が終わってしまった!
何なのこの人!? 何でこんなに
そう私が少女の態度に憤慨していると、近くから男の人の声が聞こえてきた。
それは誰かが呼んでいるような声。
今度は一体誰?
そう思っていると、近くの茂みの中から男の人がヌッと出てきた。
「おーい! ここに居たのか!」
大声でそう言った男は、金色短髪で上下に革鎧を装備した戦士のようだった。しかも全身血塗れ。
戦士の男は少女を見つけると「大丈夫か!?」と大声で声をかける。
すると少女から今までの放っておいてくれオーラが消え、それまでの態度が嘘かのように平然と話し出した。
「……それはそっくりそのままお返しするわ」
「あ?
「ふーん……」
「それよりお前の方こそどうなんだよ。薬草は集まったのか?」
「依頼分は集まったわ」
「そうか! 俺はまだクソ狼を全然殺せてねぇ!」
「ふーん」
「って、お前その狼殺したのかよ!」
「ええ」
「尻尾取ってくれたか?!」
「何で?」
「何でってお前、討伐の証拠になるだろうが!」
「私はその依頼受けてない」
「いーだろうが! やってくれてもよぉ!」
「嫌」
「チッ、他には?」
「何が?」
「もっとクソ狼殺ったんだろ!」
「ええ、十匹くらい」
「その尻尾は!」
「言う必要ある?」
「だよなあああ! お前そういう奴だよなあああ!」
まるでコントみたいな会話が私の前で繰り広げられる。
私は完全に蚊帳の外。
とりあえず私が今まで見つけた魔物の遺体はこの少女が倒したもので、会話の内容から察するに二人は冒険者……という事なのだろう。
これはある意味
この少女とは仲良くなれそうにないけど、この戦士の人ならば話くらいは出来るかも。
そう淡い期待を持った私は、今度は戦士の男へと声をかける。
「あの、すいません」
そう声を掛けると、戦士の男は私へ横目を向けてジロリと見る。
もしかして警戒されてる?
確かに初対面だし、こんな深い森の中に人が居るのはオカシイと思えるけど、それでもこんなに警戒しなくても良いのでは?
私はどうしたら警戒心を解けるかと必死に頭を巡らせる。
けどそうしている内に戦士の男は私へ向けていた視線を少女へと向ける。
そして少女へ向かって聞いた。
「なあ、コイツ知り合いか?」
すると少女は即座に答える。
「知らない」
「ふぅん、じゃあ行こうぜ」
「ええ」
そう言うと、二人は立ち去ろうとする。
どういう事? 私が何かした?
「ま、待ってください!」
慌てて私は呼び止める。
「あぁん?」
すると、いかにも不快そうに戦士の男は私へ鋭い視線を送ってきた。
もしかして、知らない間に私が何かしてしまったのだろうか。
そう感じた私はすぐさま謝罪する。
「ご、ごめんなさい。私が何かしてしまったのでしょうか?」
そう言って頭を下げるも、戦士の男はぶっきら棒な態度を変えない。
「は? うるせぇ、教団の犬とツルむ気はねぇだけだ」
教団の犬? どういう事?
私はルクナ教の敬虔な信者だけれど、教団の犬と呼ばれるような事は何もしていない。
「それは……どういう事でしょうか?」
「わかんねぇなら良いや」
戦士の男はそう言って再び立ち去ろうとする。
「待ってください!」
「あんだよ?」
「どうして少しもお話を聞いてくれないのですか!?」
「だから犬とはツルまねぇって言ってんだろ」
「ですから、その犬というのはどういう事ですか?」
「はぁ?」
戦士の男は何言ってんだコイツみたいな目を向ける。
すると何かに気づいたのか、私をジロジロと上から下へと撫で回すように見つめてきた。
「……何ですか?」
流石にちょっと気持ち悪い。
思わず口にでた。
すると戦士の男は自分の顎へ手をやり、興味深げに聞いてきた。
「お前……若いな。いくつだ?」
「……十六ですけど」
「十六! ああ成程、そういう事か」
どういう事なのか分からないが、どうやら何か納得したらしい。
そして、私が首にかけている天玲の鎖を指差すと笑い出した。
「お前盗んできたんだなソレ!」
「は、はぁ?」
いきなり何を言い出すのこの人は?
いくら何でも失礼極まりない言葉です。これは看過できません。抗議します!
「貴方失礼な事を言いますね! そんな事はしていません!」
「いやいや嘘つけお前。それは聖職者の証だろうが。十六なんて若さで貰えるわけがねぇ」
「私は特例で貰えただけです! キチンと厳正な手続きを得て正式に授与されました!」
「あの教団が特例なんかで渡すわけねぇだろうが。どうせその服だって盗んできたんだろ」
「
「だったら証拠見せてみろよ」
「だからその証拠が天玲の鎖――」
「盗んできたものだろうが」
「だから違うって――!」
そうギャイギャイ言い合っていると、少女が突然口を開いた。
「光魔法」
戦士の男はその言葉を聞き、思わず少女へ顔を向ける。
「……は?」
そう言って戦士の男はまるで狐につままれたかのような表情を見せた。
それを見た少女は表情を浮かべることはなく、ただ冷静に言葉を発する。
「その女は光魔法を使える。だから多分本当よ」
戦士の男はその言葉を聞くと右手を額に当て、天を仰いだ。
そして困ったような表情を浮かべる。
「……マジで言ってんのか」
そう戦士の男は言うと、私へ向き直す。
「お前、マジで何も知らないのな」
彼は憐れんでいるようなそうでもないような、何とも言えない表情を浮かべていた。
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