第2話 もうひとりの転生者
「奥へ!!」
次から次へと重傷を追った患者が運ばれてくる。
帆布で屋根や壁を作った入院施設は、間もなくキャパを超える。
「言葉の通じる中で動ける奴は来てくれ!!」
私がそう大声を出すと、数名のゴブリンと人間が集まってくれた。
私は赤、黄、緑、黒の四色の札を渡して患者の手首に取り付けるように指示した。
トリアージの判断は私が来てから、片腕のように働いてくれているゴブリンのエドに任せた。
当初、ゴブリン達には名前がなかったので私が勝手に呼び始めた名前だった。
それが楽しいのか便利だったのか。
この集落では名付けが流行り、大半が名前を持つようになった。
「一体何があったんだ」
集落の反対側から爆発音が聞こえ、黒煙が立ち上るのが見えた。
途方に暮れる暇すら与えてくれないペースで、患者はその数を増していった。
「先生、俺はもう平気だから」
奥で寝ていた入院患者が、よろよろと外に出て来た。
彼はルイス。
国王軍の兵士だった男だ。
いや、今もその身分は変わりない。
魔王軍のオークの一撃で内臓を損傷した。
瀕死の状況の彼を彼の戦友がここへ運んできた。
先週の話だ。
「動くな馬鹿者!!腸が破れるぞ」
「じゃぁ、ここに寝ますよ」
彼はそう言うと、地べたに横になった。
彼に続いて片腕を失ったコボルトや、脚を切断したゴブリン達がベッドを空けて出て来た。
身振り手振りで平気だと言っていた。
「ありがとう」
私は頭を下げると「赤札は奥へ!!動かせない患者は俺が行く」と叫んで診療所を駆け回った。
そんな中、ごく近くで悲鳴が上がった。
何事かと外に出ると、剣と杖を携えた若者達が居た。
騎士だろうか。
抜刀した彼の剣からは赤黒い血が滴り、その前には黄色の札を手首から下げたゴブリンのご遺体が横たわっていた。
「貴様、なんてことを!!」
私が歩み寄ると騎士は剣を俺に向けた。
「ここで何をしている!?」
騎士はそう尋ねた。
その顔を見た俺はあることに気づいた。
「日本人か?お前、転生者か?」
なら話が早いと思った。
「ここで何をしている?なぜ魔物の治療をしている?」
「日本人なら、赤十字は分かるよな。私は、敵も味方も関係なく命を救う」
「ならば我々国王軍の敵だな。正義の名のもとに邪なる魔物は駆逐する」
騎士は俺に向けた剣を引いて構え直した。
私は敵意が無いことを示す為に両腕を広げた。
「正義や悪は立場や見方で変わるものじゃないか。この集落のゴブリン達は、ついさっきまで穏やかに暮らしていただろ」
「議論の余地など無い」
騎士は汚物を見るように、横たわるゴブリン達を見回した。
「転生された勇者様達ですね」
ルイスが私の後ろまで這って来ていた。
「先生のおかげで救われました。傷が治れば国王軍に復隊します。先生は敵でも悪でもありません」
呼吸が荒くなってきた。
「ありがとう、ルイス。もう喋ってはいけない。傷に障る」
「ならばここから魔王軍に加わる者も居るということだな」
勇者が剣を握る手に力をこめた。
重戦士も腰を落として大きな斧を構えた。
日本人同士ならと思ったが——
集落を焼いた炎の魔法だろうか?
呪文の詠唱が始まった。
精霊使いは風を緩やかに吹かせる。
炎が風に煽られれば、診療所はひとたまりも無いだろう。
その後ろでオロオロしている彼はヒーラーだろうか?
彼ならば理解してくれるだろうか?
最初は私を殺そうとしていたゴブリン達だった。
だが私が治療を施す度に、態度を柔らかくしてくれた。
言葉が通じず、治療中に誤解をされて、やはり殺されそうになった。
半年間——
そんなことを繰り返してここまで来た。
思い返せば笑みがこぼれる。
「何が可笑しい?」
「異世界で出逢った同胞よりも、言葉も分からない魔物達の方が話が通じると思えば——な」
「この転生者の面汚しが!!」
勇者の剣の切っ先が私の肺の動脈を損傷させた。
ああ、このまま血液が肺を満たして私は溺死するのだな。
医を志して命を救えた喜びは素晴らしいが、自分がもう絶望的だと理解出来てしまうのはあまり良くないな。
数十秒かかるか、この苦しみは。
剣を引き抜かれ、後ろに倒れる私の身体を誰かが支えてくれた。
汚れてしまうから...いいのに...
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます