第1話 飛び込んできた炎
Chapter1. 朝のやり取り
「ほらっ。早く!」
「分かったからそんな急かさないで……」
「いいから顔を洗ってきなさい!」
「は〜い……」
寝起きでしょぼしょぼする瞼を擦りながら煌は自室を出て洗面所へ向かう。それを見送ってから薫はため息をつきながらも主人のいなくなったベッド周りを整理するのだった。
2人の朝のやりとりはリビングでも続く。
「いやいや、ご飯くらい自分で食べられるって」
「のんびりしすぎなのよ。遅刻してもいいの?」
「今までしたことないから大丈夫だって」
先ほど叩き起こした勢いのまま朝食を摂らせようとする幼馴染をどうにか抑えて煌は自分のペースを確保する。それを見てから薫は次に煌の後ろに立ち、無造作に下されている彼女の髪へ手を掛ける。これには煌も特に反応をせず、するがままにさせている。
丁寧にブラシを通し、指の通りの良し悪しを確認してからそれを一つずつの束にしていく。三つの束を交互に重ねていき、見事な三つ編みを完成させた。
「……ふふん」
本日も会心の出来。薫にとって煌の髪を編むのは数少ない安らぎと楽しみの時間である。
「毎日ごめんなさいね、薫ちゃん」
タイミングを見計らったのか、薫が落ち着いた頃に煌の母・
「いいんですよ、おばさん。慣れてますからっ」
「薫ちゃんだって自分の時間を自分のために使いでしょう?」
「煌の髪を編むのは私が使いたい時間の中でやっていることですから」
「そう?キツかったら言ってちょうだいね?ガツンと言っておくから」
「割と言われまくってるよ」
自分を差し置いて母と幼馴染が会話に花を咲かせているところに、当の中心人物が横槍を試みた。
「だったらシャンとしなさい」
「ちぇ〜」
早くもガツンとしたフックをくらい、煌は渋々食事に戻った。
「そういえば、薫ちゃんは部活してないのかい?」
ここで先ほどまで新聞を読んでいた父・
「え。あ〜、その、やりたい部活が見つからなくて……」
「そうか。まあ、無理に入るのも何か違うからね」
「そうですよね。その分を勉強に充てられるのでむしろいいことがありますよ」
「立派だな〜。煌、少しは薫ちゃんを見習って帰ってきてから勉強したらどうだ?」
「うぐっ」
唐突な流れ弾を撃たれて煌は味噌汁の具を喉に詰まらせかける。
「この流れでその話の振り方はずるくない?」
「ずるいもんか。帰ってきてからゴロゴロしている時間が長いぞ」
「そうよ、煌。宿題だけやってればいいってもんじゃないのよ」
「そんなこと言われてもさ〜」
「大丈夫です。煌が赤点とらないように私が勉強に誘いますから」
「薫?」
「薫ちゃんがついてくれるならひとまず安心かな」
「そうね、薫ちゃん、これからもうちの娘をよろしくね?」
「はい、任せてください」
「三人とも?」
まるで一陣の風のように凄まじい速度で通り過ぎていく会話に煌はついていけなくなった。
しかしながら、6月すなわち一学期のラストスパート一歩手前に入ったというのに部活をやっていないのは自分も同じだというのに自分に対してはその話題だけ避けてくれている優しさを感じているのも事実。なので、文句を言いづらかったのである。
そんなこんなしているうちに朝食を摂り終えた煌は歯を磨き、その後軽く服装を整えてから玄関に向かう。
「煌。はい、お弁当」
「ありがとう。行ってきまーす」
「行ってらっしゃい」
美芳からお昼を受け取り、先に玄関の外で待っていた薫と合流して登校したのであった。
次の更新予定
仮面の魔法使い マスカレイド・ウィザード 長井のぼりざか @Taketoshi_8
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