仮面の魔法使い マスカレイド・ウィザード

長井のぼりざか

プロローグ 夢で見たのは

『かおるちゃんは、おおきくなったらなにになりたいの?』

 

 あ、これは夢だ。あきらはすぐに理解した。現在16歳の自分にしては声が幼い。何より、小さい頃の自分の姿をその後ろから眺めている。これは現実だと到底作りえないシチュエーションである。そして、その隣にいるのは幼馴染のかおる。煌と同い年の彼女が、今もこんなに幼いはずは無かった。

 そんな懐かしい姿の親友はあどけない顔でこう質問に答えている。


『わたしはね、まほうつかいになりたい!』


 あれ?と煌は引っかかりを感じた。こういうこと言ってただろうか。そんな彼女のことなどお構いなしに薫は続けている。


『まほうがつかえるようになって、アキちゃんがずっと1ばんになれるようにしてあげたい!』


 1番?何の1番だろうと考える。少し首を傾げると幼い自分の近くに置いてあるものが目に留まった。そして理解した。いや、彼女にとって理解できないことの方が難しかった。

 幼い自分と共に在ったもの、それは和弓。自分が弓道を辞めてから、自然と遠ざけてしまったものだった。何故だか罰が悪い気持がして目を伏せる。すると、今度は薫から煌への質問が飛んできた。


『そういえばアキちゃん、いつになったらおきるの?もう朝だよ?』

「えっ?」


 脈絡のない質問が飛んできて、間の抜けた声が出た。それから、顔を上げると薫の顔が目の前の幼い自分ではなく今の自分に向けられている。後ろに誰かいるんだろうと、いつもの調子だったら思ったかもしれないがこの時ばかりは考えられなかった。困惑のあまり動きが止まった燦に構わず、幼い薫は続ける。今度は聴き慣れた薫の声で。


『アキ、朝だよ。早く起きて』


※ ※ ※


「アキ!早く起きて!」

「う~~~~ん……?」


 一度顔を顰めてから瞼を開くと、ベッドの横にショートカットでカチューシャを着けた少女が立っている。煌が現在見慣れている薫の姿がそこにはあった。


「かおる……?」

「いつまで寝る気なの。起きたならベッドから出て」

「……あと5分寝かせて」

「寝かせるわけないでしょ!」


 掛け布団を被った煌を見て薫は部屋のカーテンに手をかけ、思い切り開けた。6月に入って1週間、たまの快晴の日らしく梅雨入り前に見て以来の眩しい朝陽が差し込んでくる。


「まぶしっ」

「はいはい、それっ!」

「うわっ」


 薫が煌を起こす時はいつもこの調子である。まずは朝陽を部屋に差し込ませてから掛け布団を剥ぎ取る。この方法をとれば案外煌も素直に掛け布団を明け渡すのである。


「はいっ、顔洗って歯を磨いて!おばさん、朝ごはん作ってるからそれも食べる!」

「薫は?」

「私はいいんだよ。もう食べてきたし準備万端なんだから」

「それもそっか……」


 眠い目をこすりながら煌は洗面所へ向かった。高校一年生・穂村煌の朝はこのようにして始まる。

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