怪談『スミオさん』

スミオさんっていうのは、願いを叶えてくれる幽霊なんだって。


そう言うと大抵の人は笑うけど、これはわりとガチらしい。


願いを叶えてもらう手順は決まっている。午前二時ちょうどに、自分のスマホから「自分宛て」にLINEを送る。それだけ。


トーク画面は、自分とのメモ用トークでもいいし、トークルームを作って誰も招待しなくてもいい。とにかく、送る相手は「自分」にする。


それから、二時になる前に、送る文章を先に打っておく。「スミオさん、お願いします。」で始めて、そのあとに「〜してください」と願いごとを書く。時間が来るまでは送信ボタンに触らない。そして、秒針が“二時ちょうど”になった瞬間に押す。


送信して数秒、あるいは少し経つと、画面の右下に小さく「既読」がつく。自分しかいないはずのトークなのに、誰かが読んだってわけ。それで、願いは通ったことになる。


願いは何でもいいらしい。明日までにお金が欲しい、テストで赤点を取りたくない、死んだはずの誰かにもう一度会いたい――普通ならどうにもならないことでも、ちゃんと叶う。それがスミオさんの力なんだって。


ただし、大事なことがある。願いを叶えてもらったら、その代償として「」でお礼をしなきゃいけないんだ。


それを忘れたり、わざとしなかったりすると、スミオさんは怒って、願いをした人に憑りつくらしい。そうなると昼でも夜でも、黒い影みたいな何かが、ずっと背後をついてくるんだとか。


その影は、人の形に見えると言う人もいれば、黒い塊にしか見えないと言う人もいる。共通しているのは、はっきり見ようと目をこらした瞬間、必ず消えてしまうことなんだ。


そこから先は、しばらくその影に憑きまとわれる状態が続いて、やがて終わる。終わるといっても、いい意味じゃない。


影は、少しずつ近づいてくる。最初は数メートル後ろを歩いていたはずなのに、気づけば電車の窓に映る自分の肩のすぐ後ろに重なり、夜、スマホの画面を消した瞬間には、真っ黒なガラスに自分の顔と一緒に別の輪郭が浮かんでいる。さらに、ベッドに横になって部屋を見上げ、暗さに目が慣れてきたころ、部屋の隅だけが妙に濃くなっているのに気がつく――そこが影のいる場所だと、憑りつかれた人は何となくわかるらしい。


人によっては体調もおかしくなるみたい。原因不明の熱や、検査しても原因がわからない頭痛。そのころになると、赤いものを用意しても、もう間に合わないって言われている。


そしてある日突然、願いごとをした人は行方不明になるらしい。前触れはほとんどない。朝は普通に家を出て、昼も誰かと話していて、ついさっきまでそこにいたのに――次の瞬間、ふっと煙みたいに消えてしまう。服も荷物も、置きっぱなしのまま。スミオさんが、この世ではないどこかに連れ去ってしまうんだって。


でも、本当に怖いのは、そのあとなんだ。


行方不明になった人は、この世ではないどこかに連れ去られ、新しい「スミオさん」になる。生きているのか死んでいるのかもわからないまま、誰かの願いを叶えて、また誰かを連れ去っていく。永遠に、終わることのない地獄だ。


何でも願いが叶うって話だから、スミオさんの話は若い人たちの間でけっこう広まっているらしい。でも、みんな願いごとにばかり夢中になって、肝心の「お礼」を忘れてしまう。だから行方不明になる人が、後を絶たないんだって。


もし、スミオさんにお願いをして、そのまま何もしないでいたせいで、黒い影みたいなものが見え始めたら――。


スミオさんは、たぶんもう、すぐそこにいる。

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