第3話 鎧の男たち
沈黙が痛いほど流れたその時だった。
ガシャリ、ガシャリと聞き慣れない金属の音が俺の鼓膜を揺らす。
俺は思わず身構える。誰か来ている。誰かが……オレたちのいるこの場所に。直感的にそれらの足音に悪意を感じたオレは思わず身構えた。
ちょうどそれと同時に、石造りの壁に囲まれた、廃墟の中に男たちが入ってくる。息を切らし、オレを見つめて男達は安堵の表情を浮かべる。
そして男たちは現代とは思えない、中世風の鎧を身につけていた。
死んだ俺にハエが集っている。
俺が濡れている血の一滴、元々俺の血だったものが目の前の鎧の男たちの小手の縁に乾いてくっついていた。
決定的な証拠なんて無かった。でも目の前の鎧の男たちの血走った目と、逃した獲物を見つけたとでも言いたげな緩んだ口元を見て俺はただ悟る。
これは夢なんかじゃない。
「マジかよ……」
俺は本当に、異世界に来たのか。
「たく、手間かけさせやがって……」
鎧の男のうちの一人が言う。
「さっさと、"街"に戻りやがれ!! 出ないと俺たちが死ぬだろうが!」
その男はどうやら三人のリーダーのようで、一番体格がいい。
強いとはっきり分かる。
「くそ……!」
俺は思わず後ずさった。男たちが腰に差している剣。
西洋の剣だ。俺の死体に刻まれた傷と無関係とは思えない。
冗談だろ、コイツら人を殺し慣れてやがるんだ。
信じらんねぇ……だってそうだ、俺の近くに俺自身の死体があるのにそれに全くの興味も示していない。
それほど余裕がないのだろう。それほど俺を殺したいのだろうか。
「いいからさっさとしやがれ!!」
「おい、こいつ怪我してねぇぞ?!」
「関係ねぇよ!! 回復魔法かなんかで治したんだろ!?」
男たちが会話している。逃げられそうもない。
どうやら俺の死体など眼中になく、目の前に立って狼狽しているオレが自分たちの探していた俺だと思っているらしい。
「なぁ、頼むからさ! 抵抗しねぇでくれるかな!? 俺さガキいんだよ!! お前と同じくらいのさ!! わかるか!? お前が大人しくしてくれたらさ!! 殺さずに連れ帰れんだよ!」
リーダーらしき男は俺に向かってそう怒鳴りたてる。
どうすればいい?! ここでアイツらに黙って付いていってどうなる!? 間違いなく無事ではすまない。
「桜間トオル」
するとタイプライターが呟く。
「ちょうどいい、お前の力で倒せ」
「は?!」
何を言ってるのか俺は理解ができなかった。倒せどうやって
「俺に倒せるわけがないだろ!」
思わず俺は口に出してそう言ってしまう。顔を顰め、仲間を見合う男たちをよそにタイプライターはため息をつく。
「そうか、忘れているんだったな、お前は。この記憶だけは思い出させてやる」
瞬間だった俺の頭に情報が、流れ込む。
「ぐが……!!」
思い出す、まるで歩き方を物心ついた時に知っているかのように息の仕方を思い出すかのように俺は思い出す。
俺の力を。
俺の胸と心に激痛が走る。
「
俺がそう呟くと手元に拳銃が現れた。ただのリボルバーそれも日本の警察が使う……そう確かナンブというやつだ。
「……くるぞ!」
どうやら鎧の男達も俺のこの力に見覚えがあるようだ。
そう、これは俺の
思い出した。
自身の死因を武器に変える能力。
自身の死んだ痛みやその時の感情を強くフラッシュバックする事を代償に死因に関連した武器を顕現させる。
これは、俺の第一の死因だ。俺は銃によって胸を撃たれてそのまま死んだ。
だからその死因を武器にすると、銃の形を取るというわけだ。
「……ッ!」
オレは男達に銃を向ける。
「う、動くな!」
オレはそう怒鳴った。
「こ、ここからオレを見逃せ!」
震える手でオレはそう主張する。
殺したくなかった。
たとえ目の前の男たちがどんな悪漢であろうとも殺す勇気なんてオレには無い。
だからできればこれで引き下がってほしい。
「テメェを見逃したら……俺たちが死ぬだけなんだよ……!!」
だが、男達は引き下がらない。そのまま剣を抜き放ち、そして俺に対して突進してくる。
「ガキ! だからそれは抵抗と見なすぜ!!」
クソ! 早く責務から解放されたいからってオレを殺す気できやがった!!
迷う暇なんて、無い!!
「やめろ!!」
オレは引き金を引く。青い炎がナンブの銃口から噴き出した。
「ご……!」
瞬間だった、俺に斬りかかろうとした男の上半身が両腕と頭を残して吹き飛んだ。
「は……?!」
オレは思わず、たじろぐ。実際の銃なんて、撃ったことはない。だが小さな銃にしては……これは余りにも威力が高すぎる。
「て、テメェ!!」
その瞬間、残った二人の仲間が俺に対して詰め寄ってくる。
「やめろって言ってんだろ!!」
続けて2回引き金を引く。
パン、パンと無機質に火薬が化学反応を起こした。
1発目は男の頭を吹き飛ばし、2発目はもう一人の男の心臓と左半身ごとぶっ飛ばした。
残ったのはオレと三つの肉塊だけだった。
「よくやったトオル。行くぞ他にも追手が迫っている」
タイプライターが何かを言っているが、オレ……オレには何を言っているのか分からなかった。
「お、オレは悪くない……襲って……襲ってきたから……撃つしかなかったから……」
そうだ、オレは悪くなかった。生きなきゃいけなかったから、だから、撃っただけでオレは……悪くない。
血だ、血が広がってやがる。赤黒い、気持ち悪い。
「トオルさん! しっかり!」
その時、誰かがオレの右腕を揺らした。
金髪の少女アリスだった。
「父さんも! トオルさんにかける言葉が違いますでしょ!? もっと気にかけてあげてください!」
「すまない」
アリスはタイプライターを叱責しつつ、オレに向き直る。
「今は生き残る事を考えましょう! いいですか! アナタは死んではいけません」
「オレ……殺すつもりなんて……」
「……大丈夫です、早く行きましょう!」
オレはそのままタイプライターとアリスに急かされ歩いていく。
ハエが集まり始めた俺を……12番目の俺を置いて。
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