1 日暮れと共に日常は

1-1 倉庫にて うたた寝から目が覚めて

 ー記憶に染みついた…薄暗く、埃っぽさと土の匂い。

 聞こえる声はボヤけているのに、何度も耳に届いていたせいでハッキリとわかる。


「何度来られても私達も本人の意思も変わりません!」


 怒りを含んだその声に何度も守られてきたが、今となっては頭痛の一因でしかない。


「貴方達もわかっているでしょう?これはもう個人の感情の問題ではないと!」


 繰り返される諍いも、その原因も、解決されない理由も全てわかっている。

 けれど痛みに耐えるだけしか、出来ない。ただ…聞こえないふりをする。


「彼の力は、世界を救えるんです!」


 その言葉から、逃げ出したくてーー



「……しまった」

 蒼い髪の少年ユリオ・アゼッタ。

「ノマド」と呼ばれる流れ者である彼は、長年放置された宿屋の倉庫整理の依頼を受けていた。


 無作為に物が詰められた埃まみれの倉庫はまるで、立体パズルを解くかのよう。

 思った以上に根気がいるこの依頼も今日で3日目。

 あと一息…というところで取った休憩中、うっかり眠ってしまっていた。

 適度に薄暗く、換気用に開放している窓から流れ込む穏やかな風が心地よいせいだ。


(えっと…時間は…)


 ポケットに入れてある時計を取り出し確認する。

 幸い時間にして数分程度。見慣れた悪い夢に起こされた事は…幸運だったとしよう。


 眠気覚ましに身体をグッと伸ばし、天井の窓から空を仰ぐ。

「さぁ、もう一息…」

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