第9話





 約束の19時までにはまだ時間があるが、家にいても落ち着かないので早めに家を出て、駅へと向かう。のんびり歩いているのに、あっという間に待ち合わせの場所に着いてしまった。



 時刻は18時35分。


 静は来てくれるのか、来るなら何時に来るのか、20時までは待つと言ったけど、20時までに来なかったら、何時まで待てばいいのか。色んな考えを巡らせながら、ベンチに腰を下ろす。

 時間ばかり気になり、スマホを見る。駅に着いてから、まだ10分も経ってない。時の流れが遅すぎて嫌になる。

 うつむいてため息を吐く…。




 どうにか時間を潰し、やっと19時になった。

 駅の改札口は、電車から降りてきた人達で、賑わっている。

 この人混みの中から、静を探すのは一苦労だと思ったが、そんな事は微塵もなかった。


 改札口から右へ目を向けた先に、静はいた。

『息を呑むほどの美しさ』とは正に、この人の為にあるのかもしれない。と思える程だった。

 いつもの制服姿もいいが、私服だとより大人びて見える。

 シンプルな細身の黒のデニムに、大きめのパーカーをゆったりと着ている。

 美しいと、シンプルな服でも華やかになる。そう思いながら、静から目が離せなくなっていた。

 静が、私の前に来ても、ずっと見ていた。


「夜来さん?」


 声をかけられ、我にかえる。

 来てくれた嬉しさと、これからどうしようという不安と緊張が入り交じり、引き攣った顔のまま


「こっ、今晩は。生徒会長。来てくれて嬉しいよ」


 ぎこちない挨拶をしてしまった。


「今晩は、夜来さん」


 いつもより優しいトーンで言われた。


 家までの道のりを、二人で歩きながらポツポツと会話をする。

 マンションに着き、エントランスを抜けエレベーターで9階まで行く。廊下の突き当たり、一番奥の部屋の鍵を開け、部屋へ招き入れる。


「お邪魔します」


 ドアを閉め、一緒にリビングへ行く。ソファに座って待っててと言い、キッチンへコーヒーを淹れにいく。


 静が家にいることが嬉しくて、自然と笑顔になってしまう。こんな楽しい気分は随分と久しぶりだな。


 マグカップを2つ持ち、リビングへ急ぐ。

 コーヒーテーブルに、コーヒーを置く。

 静は、コーヒーにミルクを入れたのが好き。

 インプット完了。

 気になる人の些細なことでも知れる嬉しさに、心が満たされていく。


 ニコニコしながら静の隣…と言っても少し間を空けてソファに沈み込む。


 無言のままコーヒーを飲んでいると


「夜来さんは一人暮らしなの?」


 私は軽く、一人暮らしの理由を教えた。


「なるほど、一人暮らしなら、誰に気を使うことなく自由に遊べるわよね。だから毎日違う子を連れ込んでいるのね」


 人聞きの悪い事を言ってきた。まぁ本当の事なので、言い返せないが…。


「生徒会長、今日イジワルだね」


 うつむいて静を見上げる。


「そうかしら?夜来さんがカワイイから、ついからかいたくなるのよ」


 その言葉自体が、からかっているのでは?というような事を笑顔でサラッと言ってきた。


 私は顔が赤くなるのを感じた。きっと耳まで赤くなっているに違いない。

 普段、カワイイなんて言われ慣れてるけど、その言葉を発したのが、あの静という事で私の心臓は、これでもかというくらい速いリズムを刻んでいる。


 顔を上げ、静のキレイな顔を見たいが、まだ顔の火照りが治らず、恥ずかしくて上げることができない。

 気になる人の一言で、こんなにも自分が変わってしまうのかと驚いてしまう。


 うつむいたまま動かない私の耳に、ヒヤリと冷たいものが触れ、ビックリしてまだ赤い顔を上げると、静が目を細め、優しい顔で


「夜来さん。耳まで赤いけど、どうしたの?」


 耳の形に沿って指を動かしながら聞いてきた。


「生徒会長…それ以上、耳さわられるとヤバいので、やめてもらえませんか?」


「何がヤバいのかしら?ちゃんと言ってもらわないと解らないわ」


 さわるのをやめる所か、耳の中にまで触れてきた。呼吸が乱れる。このまま、やめないで欲しいと思ってしまう。しかし、今はやめさせないと、マジで大変な事になってしまう。

  性欲大魔神ナメんな。ゴメンナサイ。


「このまま触れられてたら、生徒会長の事を押し倒してしまいたくなるので、やめてください」


 うつむいたままの私の耳を、しばらく味わっていた指が離れた。

 ホッとした気持ちと、残念な気持ちが入り交じる。顔を上げ、キレイな顔をみつめる。


「良くできました」


 笑顔で頭を撫でられた。


 静が私の頭を撫でた。どうしよう。嬉しい。もっと撫でて。泣きそう。抱きしめて…。


 私の思考は崩壊してしまった。いや、崩壊というか、これが本来の自分なのかとも思える。


 孤独を紛らわせる為、体を重ねていた。温もりに触れていると、安心できた。

 甘えるという事、優しくされるという事を今まであまり知らなかった私は、静によって知る事ができた。

 私は愛おしい気持ちにまかせ、言ってはいけない言葉を言いそうになり、またうつむく。

『好きです』この言葉を言ったら、どんな顔をするだろう。眉間にシワを寄せ、不機嫌な顔をするだろうか。それとも何も言わずに家から出て行ってしまうかもしれない。

 そう考えると、段々と良くない方向へ考えがいってしまい、うつむいたまま動けずにいた。


「夜来さん?」


 キレイな顔が覗き込んだ。ドキッとして顔を上げる。私は考えるのをやめ、


「生徒会長、ご飯食べようよ。レトルトしかないけどいいよね」


 明るく言いながら、キッチンへ行きレトルトのハンバーグをレンジに入れ、スタートを押した。

















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