第8話
帰り道をゆっくり歩きながら、何であんな事を言ってしまったのかと、少し落ち込んでいる自分がイヤになる。
他の人にならなんて事ない誘い文句でも、いざ気になる人に言ってしまうと、途端に申し訳ないと思ってしまう。
明日、静は来てくれるのか…
来てほしいような、そうでないような…
同じ事を何度も考えては、ハァ… ため息が出る。
マンションに着き、エントランスを抜けエレベーターに乗り込む。9階のボタンを押し、光る数字を目で追いながら、また、ため息。
9階に到着し、廊下の突き当たりまで歩く。一番奥の部屋の鍵を開け、中へ入る。
そのまま寝室へ行き、制服を脱ぐ。ベッドへ潜り込みたい気持ちを抑え、シャワーを浴びに行く。少し気分もスッキリした。
ルームウェアに着替え、少し早めの夕食を食べ、リビングのソファに沈み込む。そして今日、何度目かのため息をつく。
私はため息製造マシンと化していた。
アラームをセットしていなくても、ほぼ毎日あまり眠れていないから、だいたい同じ時間に目が覚める。
しかし今日は土曜日。学校はない。布団の中でモゾモゾと向きを変え、もう一度目を閉じ意識を手放そうとして、ハッとして目を開く。
静が来るかもしれない。
そう思っただけで、心臓がいつもより早く鼓動し、胸がギュッと締めつけられる。
こんな状態では、もう眠る事など出来なくなり、夜までこの緊張が続くのかと、軽くこめかみを押さえる。
ベッドから出たい訳ではないので、頭から布団をかぶり、もしかしたら少しくらい眠れるかもしれないと、目を閉じる。
しかし、一度目覚めてしまった脳は余計な事を流し込んでくる。
あの熱を帯び潤んだ瞳。
眉間にシワを寄せ不機嫌になる顔。
少し低い声。
唇に触れる指…
閉じていた目を開き、ヤバいと声に出す。
鼓動が早くなる。落ち着かない。
まだ午前中なのに、もう耐えられそうにない。
そもそも、静が家に来て私は理性を保てるのか?
そう考えると、ベッドの上でじっとしていられなくなり、飛び起きる。
キッチンへ行き、冷蔵庫から炭酸水を出しグラスに注ぎ、一口飲む。ベッドでじっとしているより、体を動かしている方が気が紛れると思い、朝食を作り食べるが、案の定、食欲はなし。性欲はあり。
気を取り直し、着替えてから部屋の掃除に取りかかる。
トイレ、浴室、キッチンと、大掃除なみにキレイにしたが、一人暮らしということもあり案外すぐに終わってしまった。
時刻はお昼を少し回ったところ。
お腹は空いていないので、コーヒーを淹れ、リビングへ向かう。
コーヒーテーブルにマグカップを置き、ソファに沈み込む。ソファの側にある本棚からお気に入りの小説を取り、パラパラとページをめくる。適当に開いたページから読み進める。何度読んでも飽きることがない。
いつの間にか、夢中になって読み進めてしまい、気付けば外は薄暗くなっていた。
時刻は17時過ぎ。約束は19時なので、まだ時間はあるが、また緊張してきてしまった。
今日、静が家に来たらどうすればいいのか、まったく解らない。どうせなら、すっぽかされた方が気が楽だと考えてしまう。
そう考えながらも、来てくれなかったら物凄く落ち込む事は解っている。
ハァ…と、ため息をつき、私ってこんなに気弱になるんだぁと初めて感じた。
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