第7話





 3年生になり、クラスで聞こえる会話の大半は進路のことになっていた。

 私の首に腕をまわしている今夜のお相手、りんが大学へ行くのかと、興味もなさそうに聞いてきた。

 私は答える気もないので、話を逸らすべく彼女の髪を触りながら、他愛もない会話を始めた。

 凛の耳元で話をしながら何気なく顔を上げると、眉間にシワを寄せた不機嫌な顔と、目が合った。

 私の心臓は、久しぶりに大きく跳ね上がった。


 あぁ、何てキレイな顔なのだろうと、思いながら目で静の姿を追う。

 もっと、あの誰にも見せないであろう顔を見ていたいと思ってしまう。

 もう静以外、誰も必要ないと思ってしまうほどハマってしまっているようだ。




 昨夜、首には付けるなと言ってあるキスマークのかわりに、噛まれた跡がクッキリ残っている。

 鏡を見ながら、噛み跡は髪の毛を耳にかけなければ、まず大丈夫だろう。そう思いながらも、静に気付かれてしまうかなぁ…。気付けばいいなぁ…。ボソッと言って我にかえる。

 何で気付いてほしいかなんて考えはやめて、学校へ行く準備をし、家を出る。



 何事もなく放課後になり、帰る準備をしていると、名前を呼ばれた。私は動かしていた手を止め、顔を上げずにうつむいていると、背後から、生徒会室に来るようにと言われる。


「‥はい」


 小さく返事をした。



 生徒会室の前。ドアをノックする。


「どうぞ」


 静の声がする。


 無言で入り、静がいる大きな机の前ではなく、ソファに腰をかける。

 静が顔を上げ、目が合う。切れ長のその眼は、いつもと変わらず、海の底のような漆黒の色をしていた。


「何故呼ばれたか、わかるかしら?」


 椅子から立ち上がり、こちらに向かいながら聞いてきた。


「ん?何だろう?デートのお誘いかな?」


 いつもの調子で答える。しかし内心は、首の噛み跡の事かもしれない。もしかしたらシャツで隠れているはずのキスマークが見えていたのかもしれないと考えてしまう。


 でも…もしそうなら、また、あの不機嫌でキレイな顔を見せてくれるかもしれない。と淡い期待をしてしまう。


「夜」


 私の名前を呼びながら、細く白い指が耳に触れる。

 体が小さく震える。もっとさわってほしい、やめないでほしい、そんな邪な気持ちで静をみる。

 その顔に触れたくて、手を伸ばす…

 パシッ。手を叩かれ、あわてて引っ込める。


「す、すみません」


 そう言いながら、静の眼を見る。

 その瞳はあの時のように艶っぽく、少し潤んだ色をしていた。



 私の耳から指が離れ、その指は私の髪の毛を何度もさわりながら耳にかけた。そして露わになった噛み跡を撫でられる。

 触れられると、まだ少し痛くて眉をひそめる。


 噛み跡をさわりながら、空いているもう片方の手は、私のシャツのボタンを2個、3個と外し、シャツを開く。

 私は、静が何をしているのか理解するまでに数秒を要した。

 いつもなら、誘われているかのような状況でも、これは違う。静にキスマークを見られていると解り、その手を掴んだ。


「何のつもり?何でキスマークあるとか知ってんの?」


 少しキツめに問いかけた。

 静は細く白い指を、噛み跡とキスマークに這わせながら


「昨日のお相手が、あなたに沢山キスマークをつけて、あなたの指が気持ち良すぎて、首を噛んでしまったと自慢げに話していたからよ」


 そう答えながら私の顔を見るその眼はもう、いつもの瞳に戻っていた。


「それ、生徒会長が聞いたとしても、関係ないでしょ?」


 私にまとわりついている指をはがし、制服を整える。


「用が済んだなら、失礼します」


 ソファから立ち、ドアへ向かう私に


「夜…」


 いつもより明らかに優しい声で言われ、思わず立ち止まる。


「あなたとの一夜はとても楽しいんでしょうね。だからみんな、あなたに夢中になるのね」


「それなら…明日土曜だし、気になるなら一度試してみたら?私といて楽しいか、楽しくないか」


 言うつもりなんてなかった言葉が、喉から出て声になっていた。もう、癖のようなものなのかもしれない。


 静に待ち合わせの場所と時間を伝え、明日来なくても気にしないから大丈夫だと言って、生徒会室を後にした。







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