第3話





 永良静ながらせい。この学校で知らない人はいないくらい有名な名前。

 成績は常にトップ。1年生で生徒会長に任命され、今はもちろん、3年生になっても続く役職。


 生徒会長は私が逃げると思ったのか、腕を掴みながら


夜来やらいさん、私の名前わかる?」



 腕の触れられている場所に、意識と神経が集中する。手を握ってほしかったと思いながらニコリと笑い


「静でしょ」


 あえて下の名前で呼ぶ。


「生徒会長の名前くらい知ってるよ。キレイな人の名前は、秒で覚えるから」


 言ってから一言多かったと思い口をつぐむ。



 永良静は、切長の目、高い鼻、薄い唇、肩甲骨辺りまである艶やかな黒髪、私より少し高い身長、細い体の線、白くスラリと伸びた腕と脚。視線を奪われるのは当たり前。

 どこをどう見ても、超絶美人なのである。

 口を閉じたまま、静の顔を見る。その顔に見惚れていると


「そういう言葉がすぐ出てくるなんて、夜来さん、凄い遊んでそうね」


 眉間に少しシワを寄せ、不機嫌そうな顔で言った。

 その言葉を聞きながら、今私に向けているその顔を、他の人には見せないでほしい。そう強く思った。


「生徒会長がそんな顔するなんて意外。誰にでも笑顔なのかと思ってたのに」


 私の腕を掴んでいる手に、そっと自分の手を重ね強く押す。重なった手に、ビクッと静の手が少し動いたので、私はゆっくりと重ねた手をどかした。


 それに合わせるように、静も私から手を離した。離れてしまった体温を、少し寂しく思いながら美しい顔を見る。


「で?何か用でもあるの?生徒会長」


「別に用ではないのだけど、学校には慣れたかしらと思って」


 なる程、生徒会長らしい言葉が返ってきた。何故かモヤモヤする。


「慣れたよ」

 

 私はつまらなく答えた。




 静に腕を掴まれてから数ヶ月経ち、私のモヤモヤも解消されていた矢先、隣の席の会話が聞こえてきた。


「永良さんが他の高校の男子に告られたって」


 その言葉が聞こえた瞬間、マジで?と隣の席に集まっているクラスメイトに向けて言った。


 夜来さんと目が合っちゃったー。と呑気に言っているクラスメイトに愛想笑いを浮かべ、さっきの話を聞き返した。


「生徒会長ってモテるの?」


 聞きながら、あれだけ美人なら当たり前かと思う。するとクラスメイトの一人が、


「夜来さんほどじゃないと思うけど、何回かは告白されてるみたい。全部断ってるみたいだけど」


 断っている事がわかり、何故かホッとする。


「私は夜来さんの方がいいけどなぁ」


 そう言いながら、私の肩に手を置いた。その手が肩から移動して首筋を撫でる。

 私はその手に触れながら、ふと視線を上げると教室に入ってきた静と目が合った。

 静は私に触れている手を見て一瞬、眉間にシワを寄せた。


 まただ…。私は静のその不機嫌な顔をもう一度見たいと願っていたので、嬉しくなった。もっと私だけに見せてほしい。誰も知らない静の顔を見たい。

 そんな事を考えながら、さっきまでそこに居たが、今は誰もいない空間を見つめていると


「夜来さーん」


 甘い声が聞こえてきた。

 いつのまにか手は私の首から離れ、私の手を握っていた。私はその手を握り返しながら


「今日、家来る?」


 笑顔で言った。











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