ゲレンデ

白川津 中々

 暖房が暑すぎる。


「あのぉ~温度下げてもよろしいでしょうか?」


 そう聞いた瞬間、社内の温度管理をしているお局様が鋭く睨み俺を切り裂く。


「いいわけないじゃん。このクソ寒いのになんでそういう発想になるの?」


「すみません……ちょっと体質的に暖房が苦手で……こう、耳の辺りが熱く、頭がぼーっとしちゃいまして……」


「耳熱くなったらいいじゃん。ぼーっとしたらいいじゃん。それともなに? あんたのために私ら全員寒い思いをしろってわけ?」


「あ、そんなんじゃなくて……」


「大した仕事もしてないのに暑いの寒いの文句いってんじゃないよ! そんなに気になるなら自腹でコアーキングスペースでも行ってこいカスぅ!」


「すみません……」


 なぜこれがパワハラにならないのか。それは彼女がお局だからだ。

そんな事より、この暑さの中でどうやって仕事に集中するかを考えなくてはいけない。さっきからもうずっと暑くて脳がいうことをきいてくれず資料は白紙。あぁまるで雪のようだ。何もない真っ白な雪原に頭を埋めたい。そうだ、スキー場へ行こう。おレはもう我慢の限界なんだ。


「ゲレンデ! ゲレンデ!」


 あまりの暑さに叫んだ。叫ばずにはいられなかった。もしかして狂った? 知らん。そんな事より白銀が呼んでいる。


「ちょっと……なに会社で騒いでるの? 迷惑なんだけど」


 お局様だ。こう見ると可愛いなおい。


「来い! 二人の愛でパウダースノウを温泉にしてやろう!」


「え、ちょ……た、タイムカード……タイムカードだけ切らせて!」


 二人揃って無断早退。お局様の手を取り苗場。スキーしてそのまま宿泊。それから……


 ……


「ちょっと、寒いんだけど。エアコンの温度上げてくんない?」


「あ、すみません」


「少しははお腹の子の事も考えてよね」


「はい」


 俺達は、新しい命と共に家族となった。

 暖房も家庭も、とても暖かい。

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