第7話:極点の太陽

1. 絶対零度の監獄


 王立魔導学院の地下迷宮。

 本来、ここは学生たちの実戦経験を積ませるための、徹底的に管理された訓練場のはずだった。


 だが、今、そこは「死の揺りかご」と化していた。


「ひ、ひぃっ……! なんだ、この寒さは……! 魔法が、発動しないぞ!?」


 新入生たちの悲鳴が、凍りついた回廊に響く。

 何者かの工作か、迷宮そのものの悪意か。突如として現れたのは、本来深層にしか存在しないはずの災害級魔獣――『凍土の巨人フロスト・ギガント』だった。


 十メートルを超える氷の巨躯から放たれるのは、単なる冷気ではない。

 それは物質の運動を強制的に停止させる、概念的な『静止』。

 引率の教師シグリッドが放った上位の防御魔法さえも、瞬時に白く結晶化し、ガラス細工のように砕け散った。


「逃げ……なさい……。これは、人の手に負えるものでは……」


 シグリッドが血を吐きながら倒れる。

 生徒たちの先頭に立っていたセレスティアが、震える手で銀の杖を構えた。


「氷結の聖女の名にかけて……止まりなさい、この化け物!」


 彼女が放てる最大級の極大氷結魔法。だが、巨人はそれを「同じ属性」として吸収し、さらに巨大化する。


 絶望が、冷気と共にセレスティアの心まで凍らせようとしたその時。


 背後から、場違いなほど「熱の乏しい」足音が近づいてきた。


「……下がっていろ。氷が溶けるだけでは済まないぞ」


 イグニスだった。

 彼は相変わらず、退屈そうに首を回しながら、死を振りまく巨人の前へと歩み出た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る