第8話 家庭教師の暴挙

シンシアの部屋に着いた時、2人は違和感を感じていた。シンシアの部屋に近づけば近づくほどどんどん屋敷自体が静かになっていったからだ。シンシアの部屋の前は誰1人として使用人がいない。通常であれば護衛騎士が少なくとも1人はドアの外に立っているように伝えてあるが、護衛騎士すらいない。部屋の前は異様なほどの静けさがあった。

(人払いをされている・・?)

「・・なんか、人が少ないというか、使用人が見えないんだけど。」

「私もそう思っていました。護衛が外にいないので、もしかしたら外ではなく中に入っているのかもしれません。」

違和感をぬぐい切れないまま、ルイザはそっとシンシアの部屋のドアを開け、中を覗いてみた。


中には机に向かって必死に問題を解いているシンシアと、その側で仁王立ちになりシンシアを見ている家庭教師が見えた。壁際にはメイド1人と護衛1人が立っている。メイドは冷ややかな目でシンシアを見ており、護衛はあくびを噛みしめながら外を眺めていた。室内はレースのカーテンがかかり、日差しは入ってきているもののどことなく暗い雰囲気が漂っていた。

「あっ」

シンシアが小さく声を出す。シンシアがペンを落としたのだ。その声に反応した家庭教師がビシっと小さな鞭で机を叩き、騒ぎ出す。

「お嬢様!!!こんなことではクレアトン家を継ぐことなどできませんよ!!!こんな問題すら解けないなんて、あなたのお母様は何というでしょうか!」

シンシアが解いていた問題用紙を手に取り、怒鳴り声をあげる。その声に肩を震わせるシンシアに対し、家庭教師はさらに暴言を繰り返す。

「この程度であれば平民でも解くことができるでしょう。お嬢様、このままではお母様のような当主にはなれませんよ?」

はあ~と深いため息をつき、シンシアの机の周りをグルグル歩きだす。

「お嬢様は今まで騎士団の真似事などを毎日していたのでしょう?そういう野蛮なところが今こうやって座学の方に響いているんでしょうね~。お嬢様はあなたの母親だけではなく、ヨハス様の血も継いでいるはずなのに・・こんなに野蛮になってしまって・・」

シンシアに対しての暴言が繰り返されている中、に護衛とメイドは何も言わずただ冷めた目で立っているだけだ。


(えっ)

ルイザは目の前で起こっていることが信じられなかった。実の娘の家庭教師が暴言を繰り返していること、そもそも前に見た家庭教師と違う。

(これは一体どういうことなの・・)

衝撃からルイザは動くことができなかった。

シンシアは何も言わず、口を一文字にして問題を解くが、少しでも手が止まると家庭教師が手に持っている小さい鞭で机を叩いた。叩く度ビクビクと怯えるシンシアに優越感に浸る家庭教師は問題の答え合わせをする。

「あーあ。ミスが3個あります。これは罰が必要ですねぇ。ふくらはぎを出してください。」

シンシアは目に涙を溜めながらキッと家庭教師を見つめ、言われた通りスカートを上げふくらはぎを露出させたまま家庭教師の目の前に立った。

「先ほど私を見た時、反抗的な目をしていましたね。罰として今日は治癒の軟膏はあげません。ふふ。1日中痛みに耐えてくださいね。」

家庭教師はそう言って、歪んだ笑みを浮かべながらカバンの中から大きい鞭を出し始めた。

ルイザは今にもシンシアに対して鞭打とうとする家庭教師の姿を見て目の前が真っ赤に染まるのを感じた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

次の更新予定

2025年12月26日 17:00
2025年12月26日 18:00
2025年12月27日 18:00

夫に騙されて死んだ元女騎士、次こそ愛娘と共に幸せになります! モハチ @mo_hachi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ