第7話 屋敷の中

情報屋であるカイラスからの連絡を待つ間、ルイザは鬼のように仕事をこなしていた。

(ヨハスが現時点でどの程度領地に影響を及ぼしているのかを確認しなければ)

執事のニックをこき使い、様々な場所に派遣しては情報をすり合わせることを繰り返し、ようやく領地全体の把握をすることができた。

(今の時点でヨハスが領地に対して何らかの手を下していることは無さそう・・ということは、これから・・ということなのかしら・・)


ルイザが毒によって動けなくなり最終的に殺された、その過程で元々いた古参の使用人は次々といなくなり、新しい使用人に変わっていた。最側近であったシイナ、ニックはもちろん気づいたときには姿を見なくなっていた。推測するに、辞職に追い込まれた、あるいは殺されていたかの2択だと考えている。

(この2人が何かをやらかす、ということはまずありえないもの。何か汚職を擦り付けられた可能性もあるわ。)

ちなみにクレアトン家の騎士団長は死刑を免れた犯罪奴隷が最終的に行く場所、炭鉱行になっていた。

(騎士団長が炭鉱行になったのも事後報告だったもの。そもそも、騎士団長であるは脳筋だから、罰を受けるようなことをしでかす頭脳は無いわ。何かしらの罪を着せられた可能性がある。となると、元居た使用人たちはそうやってどこかへ追いやられてしまったのかしら・・。)

ルイザ自身が寝たきりになった後は領地経営もヨハスに任せることになり、情報も入らなくなってきていたため、その時期の情報が全くない。ルイザは歯がゆい気持ちを感じていた。


(今はそれを阻止するために現在の更なる情報収集が必要ね。)

「ニック、最近この屋敷の中はどんな感じ?私に報告があった無かった関わらず、ヨハスが新たに加えた使用人とかいるのかしら?使用人の出入りを中心に教えてほしい。あとその推薦状もあれば持ってきてくれる?」

ニックはせわしなく動かしていた手を緩めてルイザを見た。

「は、はあ。ヨハス様が報告しなかった使用人ですか・・今すぐですか・・?」

書類の整理に追われていたニックは手に書類を山ほど持った体勢で固まりながら尋ねた。

「今すぐに決まっているじゃない!お願いね!」

「うう!わかりました!書類をすぐお持ちします!」

書類を置いて脱兎のごとくニックが出て行った後、ルイザはシイナにも尋ねる。

「最近のメイドたちはどう?人員の動きとか。・・怪しい者はいないよね?」

シイナはルイザのティーカップに新しい紅茶をいれながら答えた。

「そうですね。確か先月、ヨハス様がメイドを入れてきています。」

(もう、ヨハスからメイドが投入されていたのね・・やられたわ・・)

「その者はヨハス様のお墨付きであることと、ヨハス様自身が『良いメイドだから娘のメイドにしたい、ルイザには許可を取っている!』とおっしゃられていたので、シンシア様の専属メイドになりました。」

ルイザは自身に身に覚えのないことを言われ驚いた。

「え?私!そんなこと聞いてないけど!!」

「そ、そうなんですか?ヨハス様は自信たっぷりにルイザ様の許可を得たと言っていましたが。他のメイドもルイザ様がおっしゃるならと受け入れていていました。」

「・・・・ヨハス・・あいつ・・」

ぼそっと小さな声で悪態をつきながらも、ルイザは話を進めるようシイナを促す。

「ちなみにそのメイドはそんなに良い人なの?」

シイナは顔を曇らせ話し始めた。

「正直、私から見ても他のメイドから見ても良いとは言えません。シンシアの専属メイド、エリからの話ですが、最近お嬢様用の買い物などを理由に、エリをお嬢様に付き添えない状況にもっていくことが多いそうです。『私はお嬢様と仲良くなる必要があるから、あなたが雑用をして』と言って。エリも反論はしていますが、エリは平民出身であの穏やかな性格に対し、新しいメイドは元貴族ということで強く当たってきて有耶無耶にされてしまうそうです。専属メイドになる前も仕事はサボり気味だったと聞いています。」

ルイザは話を聞きながら手をグッと握り、我慢しながら話を聞いた。

「・・シンシア様はメイドたちの中でも人気者で、専属メイドになることを希望している者たちも多かったですから・・。その点でもいくら推薦があるからと言って専属メイドになるなんて!と他メイドからも言われたことはあります。

後もう一つメイドたちが怒ったのは、ヨハス様がシンシア様の小さい頃から仕えていた2人のメイドのうちレマを外されたことです・・。同年代のメイドが良いだろうからとヨハス様が外されました。このこともヨハス様がルイザ様に直接伝えるから、伝えなくてよい、とおっしゃってましたが・・」

レマはシンシアが生まれた時からの専属メイドで、乳母でもある。しっかり者でルイザがまだ慣れない領地経営をしている間、シンシアにずっと付き添ってくれていた。そんなレマを外したということを全く聞いておらず、寝耳に水状態だったシンシアは飲んでいたカップを置いて勢いよく立ちあがった。

「聞いていないわ!レマは!今どこにいるの!?」

「・・ここ数日のことなので、まだレマはこの屋敷に居ますが・・。本当に知らなかったんですね。」

「そうよ!レマを元に戻すのよ!今すぐ!」

「分かりました。」

シイナが手を叩くと外からメイドが2名中に入ってきた。シイナは2人に命令を下した。

「レマをシンシア様の専属に戻すことになりました。レマを引き留めていたメイドたちに伝えて頂戴。」

「「はい!」」

良い返事をしたメイドはその場を素早く去っていった。

「・・シイナ、引き留めていてくれたの?」

「ヨハス様がその時しどろもどろだったので・・。ヨハス様が屋敷に居ない時にルイザ様に話を聞こうと思っていました。」

「・・ありがとう。これからはヨハスがいようがいまいが構わないから何でも言って。ヨハスに罰せられても私が庇うから。」

「・・ありがとうございます。助かります。」

2人はにっこりと笑いあった。


「ところでシイナ・・その新しいメイド見に行けるかしら?」

「はい。今の時間は家庭教師から授業を受けている時なので、側に仕えていると思います。」

「行くわよ。」

2人はシンシアの部屋に向かった。


「ルイザ様!!推薦状お持ちしました!!」

ニックが執務室に着いたとき、2人はシンシアの部屋に向かっていたため執務室はもぬけの殻だった。

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